“普通にしてくれよ、そしたら元に戻れる。”
こんなにも純粋で繊細で切なくて美しくて一時も目が離せない映画は久々。
舞台はアイスランドの田舎町。物語は母子家庭で姉2人と暮らすソールと、一人っ子で暴力癖のある父親を持つクリスティアンの2人が中心。2人は親友で何をするにも一緒、だが次第にソールはベータという女の子の事が気になり、クリスティアンはそれを親友の立場で後押しするも、友情以外の感情に気づいていく。
とりあえずクリスティアンの葛藤する演技が素晴らしかった。田舎町の閉塞感、周りはみんな知り合いで、噂はすぐに広まる事はソールの母親が男を連れ込んだことや、クリスティアンの父親が喧嘩したことを町のみんなが知っていることから分かる。親友ならではのふざけ合いと、それを超えてしまうギリギリのラインがずっと続くので、クリスティアンに感情移入すると終始切ない。
ソールも無邪気ながらもだんだんと親友の不穏な行動に戸惑う様子が痛いほど伝わる演技だった。初めはソールは女家族の中にいるから、同性愛に目覚めるのかなと思っていたけど、まぁ確かに2人ともハッピーだったらこんな評価は高くなってないか。
アイスランドの綺麗で壮大な景色に、鳥や魚や羊などの死が盛り込まれていて自然の厳しさ、そして生きるということの難しさを表現しているようだった。白夜の下明るい夜にそれぞれがいろんな感情を抱いてベッドに横たわるシーンが印象的。
特に切ないのが、キャンプの夜と馬小屋のじゃれ合いのシーン。この二つは忘れる事ができないと思う。最後に息を吹き返して泳ぎ去って行ったカサゴはクリスティアンの事なんだろうな。他と違っているものを潰す人と、助ける人。生きる権利は誰にでもある。LGBT映画を訳もなく遠ざけている人もこれと“ブロークバックマウンテン“は見て欲しい。アメリカのゲイパレードとかの華やかな映画ではなく、本当に等身大で無垢で、最近で一番心に響いた映画だった。