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ハートストーンのpaterson33のレビュー・感想・評価

ハートストーン(2016年製作の映画)
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人生において最も多感な、繊細で脆い季節。そして或いは、最も残酷かもしれない季節。その時期の葛藤とか苦しみ、胸の奥にあるやり場のない気持ち。自分という人間に苛立ちを覚えたり、アイデンティティーに困惑したり、もう何をどうしたらいいのか分からなくなって叫び出したくなったり。あの年頃は、沢山傷を負うし、いろんなものを手にしたと思えば失ったりする。その全ての経験はきっと一生、人生の記録から削除されない。でも、それらを受け入れて自分自身と向き合うことができれば、自分は自分でいいのだと気が付いて、それからの呼吸がだいぶ楽になるのかもしれない。
アイスランドの、余計な飾り立てのない雄大な自然の美しさ。無音だからそれらが余計に際立って、更に登場人物たちの心の音も真っ直ぐに伝わってくる。彼らの演技が、とても素晴らしかった。心が打ち砕かれそうなほど苦しいのに、目に入ってくる光景は美しいから尚残酷。コミュニティが小さければ小さいほど、人と人が近い分逃げ場がなくなってしまう。子供は子供の世界の残酷さ、大人は大人の世界の残酷さがある。環境というものは時に人を殺してしまうほどの恐ろしい魔力を持つ。ちょっと外に目を向けて見れば自分がいかに小さ過ぎる世界にいて、死にたくなるような悩みだっていかに小さいかということにも気が付けるはずなのに。SNSが蔓延るこの時代でも、世界中と繋がることができても、鎖に繋がれて檻に閉じ込められている人は沢山いるのだろう。世界は思ったよりも広いのに、自ら人生に幕を閉じてしまう人がいなくならないこの世の中はやっぱり虚しいし悲しい。鑑賞後、茫然としながらいろんなシーンを大切に胸の中にしまいたくなった。目を瞑ると目の前に、広大な自然と、海と、あの空気の匂いが漂ってくる。暫く引き摺りそう。
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