陳知春

夜の浜辺でひとりの陳知春のレビュー・感想・評価

夜の浜辺でひとり(2016年製作の映画)
4.5
初のホン・サンス監督の作品。

「お嬢さん」絡みで、彼とその女優さんキム・ミンヒの浮気のこともどこかで読んでいたし、監督がそれを映画にしてカンヌに出展していたのも聞いていた。

しかし、序盤の何処かで見た景色、あれ?ドイツじゃん(映画は海辺だったから多分Hamburg)から始まり、そこで成される、作り物の演出では永遠に成し得ないであろう、人間らしい肉薄した会話劇に魅了されて一気に物語に引き込まれる。

一方が一方を思うが、孤独を埋め合わせようとして余計孤独になる。主人公が監督を想う。店の奥さんが、友達(?)の男を想う。奥さんにキスをせがむ男や、おそらくメタ的にキム・ミンヒを想うホン・サンス監督。映画の冒頭にあった「正直でいることが一番よ」という台詞が、映画が進むにつれて、少し乾いて響いてくる。全く飾り気のない演出が、逆に劇中の人間の感情をそのまま醸し出させている。まるで映画だとは意識できず、まるでその場にいるように、彼らの感情の波に揺らされて、自分も一人の人間で、孤独を感じているのだと際立たされてしまう。

時々訳の分からない演出もあるが、まぁ私の周りの日常もこんなものだしと受け入れてしまう。鑑賞後は、映画を観たような観てないような、でも心の中になにかそれでも温かいものが残る。私にとって大事な映画の一本となった。

ホン・サンス監督の作品、他にも観てみよう。
陳知春

陳知春