柏エシディシ

夜の浜辺でひとりの柏エシディシのレビュー・感想・評価

夜の浜辺でひとり(2016年製作の映画)
3.0
映画監督との不倫スキャンダルを逃れる様にハンブルクに友人を訪ねに来た女優という設定からして、普通避けるとおもうのだけれど、当の本人たちが監督脚本、主演してしまう所からして尋常ではない上に、それでいて、こちらのありがちな下世話な興味を軽やかに飛び越えてくる快作。

この後に製作された「それから」に感じた諦念めいたものはこの作品ではまだ弱く、キム・ミニ演じる主人公ヨンヒにまとわりつく黒服の男は、ふたり(現実と劇中の女優と監督)の心に影を落とす罪悪感や不安の象徴(it followsを想起)の様で、まさにそんな心の移ろいがドキュメントされており、これはこれで面白い。

登場人物ふたりによるダイアローグ、友人知人で囲む食卓、白昼夢とも現実とも判別出来ないシークエンス。ホン・サンスらしい舞台設定とユーモアはいつもの定型。しかし、不思議とマンネリ感はなく、一緒にその場にいる様な親密感。ホン・サンス若輩者の自分もクセになって来ましたw

ハンブルクの浜辺では憂鬱に攫われる様に退場したヨンヒが終幕、カンヌンの寄せては返す波間を前に凛と立つ姿は覚悟というには悲壮感もなく、どこか達観した佇まいに誇り高ささえ感じる。
ホン・サンスとキム・ミニの静かながら、誠実で正直な表明に敬意を表したい。
柏エシディシ

柏エシディシ