純

夜の浜辺でひとりの純のレビュー・感想・評価

夜の浜辺でひとり(2016年製作の映画)
3.9
海という場所はこんなにもそっけなく、そしてこんなにもやわらかい。波の音が幸せを運んでくれなくても、私は不幸ではないと信じる心を取り戻すことはできるのだ。浜辺を歩くたびに感じる砂の感触も、潮風の匂いも、何度訪れても新しく、同時にいつまでも懐かしい。

「死ぬときは綺麗に死にたいの」だから彼女は苦しいならこの恋は諦めると言う。でも縋りたい、近くにいたいという気持ちも本物で、漂うしかない未来の軽さが苦しいね。居場所も行き先もない思いが、冷たい空気の中を彷徨って、最後にはどこに行き着くんだろう。どこか大丈夫な場所を見つける前に、どうか沈んでしまいませんように。間違いも悪いこともひとつの見方からしたらそうだっただけかもしれなくて、逃げてるだけだと言われても、海を見に行くひとかけらの健やかさがあることのほうが、ずっと大切なんだと思う。これから歩む道も歩み方も、急いで決めなきゃいけないなんて決まりはないよ。

一度結んでしまった契りや関係性が、無駄なものになってしまうことだってあるんだな。そのときに一番だったものがこれからずっと一番である保証がないこと、どうしてその瞬間まで気づけないんだろう。自由な自分と、失うものがある相手。私にとっては迷いのない愛が、相手にとってはもう後悔の海でしかない事実。それがどんなに喪失感をもたらすか、見えるものしか失っていないあなたには一生わからないんだよね。そう責めて傷つけることさえできない愛が、耐えきれなくてまた海に求めてほしいと泣きつくのかな。

会話も季節も間違っているようで、結局すべて正しかった。退屈なようでどの瞬間も実は愉快だったのに、また私たちは気づけなくて泣いているね。何度繰り返しても、なんて世界はないんだった。繰り返すだとか戻るだとか、そんな繋がりをひとは持てないのだと認めてしまわないと、いつか凍えて動けなくなる。もう一度出会うって方法でしか、私たちは未来へは行けないよ。過去や今が夢みたいで、ぼんやりしているはずの未来が一番確実な気がするのは、ここが浜辺で、わたしがひとりだからですか。
純