Inagaquilala

パパ:ヘミングウェイの真実のInagaquilalaのレビュー・感想・評価

3.8
キューバのハバナには一度だけ出かけたことがある。この作品では、そのとき見たあの街の風景や店や住居などがそのまま映し出されている。それというのも、1959年のキューバ革命後、アメリカ資本でハリウッド俳優が出演する長編映画の撮影が同国内で行われたのは、この作品が初めてだったからだ。それまで「ハバナ」(1990年)とか「ゴッドファーザーPARTII」(1974年)とか、キューバを舞台にしたハリウッド作品はあったが、そのほとんどの撮影は、ドミニカ共和国などの他の場所でされていた。タイトルに「ハバナ」が冠された作品でさえそうだったのだ(「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」(1999年)はドキュメンタリーなので事情は異なる)。

とはいえ、この作品の売りは現地ロケだけではない。当時キューバに住んでいたヘミングウェイが、ある事情でアメリカのFBIに狙われていたことが、作品のなかでは重要なファクターとして登場し、かつ創作意欲の減退と妻との関係に悩んでいたヘミングウエイの実像が描かれているからだ。銃を手にして、何度も自殺への誘惑にとらわれる「パパ」の姿が何度も映される。この作品が描いた時期から1年半後に、ヘミングウェィはキューバから遠く離れたアメリカ北西部のアイダホ州でショットガン自殺することになる。タイプライターに向かっても1文字も書けないノーベル賞作家、ロンドンで知り合い、当時同業者でもあった妻との確執、そして迫り来るキューバ革命。語り手はヘミングウェイに手紙を出したことで、彼の知遇をうける新聞記者なのだが、彼の目を通してヘミングウェイの人生に迫っていく。

ハバナの街の描写は悪くない。映画に臭いがあれば、もっとリアリティは増すのだが、実際のハバナはいろいろな臭いが混じり合って、香りフェチの人間にとっては結構タフな街だ。ヘミングウェイが通って、フローズンダイキリを飲んだ「フロリディーテ」でもドラマが展開する。ヘミングウェイの自宅も見事だ。とくに新聞記者が彼の自宅を訪れ、最初に目にするプールのシーンは、好きな場面のひとつだ。個人的にヘミングウェイに思い込みがあるせいか、この作品を評価するには、やや冷静さが欠けているかもしれない。そのあたり、斟酌していただければ助かる。
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