りっく

映画 山田孝之3Dのりっくのレビュー・感想・評価

映画 山田孝之3D(2017年製作の映画)
3.5
山田孝之は宗教家のようである。本人も周囲から言われたことがあると前半で答えているが、そのイメージを存分に活用しスピリチュアルな3D効果を醸し出す。そして山田孝之は自分の深層心理のレイヤーを一段一段降りていく。そこには幼少期遊んだ場所の記憶や家庭が崩壊しているという危機感、さらには今でも後悔している友人への嘘や、初恋の想い出である。それを実に淡々と語っていく山田孝之。田舎の閉塞感と上京して感じた孤独感を語る言葉は思わず共感してしまう。

ただ山田孝之は怪物でもある。「凶悪」で11段階のギアを設定し、そのさじ加減を微妙に調整しながら自分自身に嘘をつき架空のキャラクターを演じてしまう男だ。恥ずかしがり屋なのに目立ちたがり屋。そんな自分自身に暗示をかけ、自分を演じてみせる。だからこそ、あんなにも客観的に自分を、そして周囲から望まれている役割を、山田孝之は分析できるのだろうか。その分裂した状態こそが、役者としての性であるかのような感覚に陥る。

だが山田孝之はまたもや観客を煙に巻く。山田孝之がインタビューで答えているエピソードはおそらく本当であろう。ただそれを語る山田孝之の感情は芝居なのかもしれない。そのような遊戯的なスタンスこそが、この俳優の目の離せないところである。彼の人生に興味があるか否かという点も大事ではあるが、おそらく山下敦弘や松江哲明がそうであるように、山田孝之という興味深い俳優という生き物を観察する視点と同化できるか。その点において本作は十分に成功しているし、普遍性を持っていると思う。
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