櫻イミト

七月の雨/夕立ちの櫻イミトのレビュー・感想・評価

七月の雨/夕立ち(1967年製作の映画)
3.7
マルレン・フツィエフ監督の「私は20歳」(1965公開)の次作。ロシア・ニューウエーブ時代(雪解け時代)の終わりを予感させる女性実存映画。原題「Июльский дождь(7月の雨)」。

1966年頃のモスクワ。印刷会社で翻訳家として働くレナは、将来有望な科学者ヴォロディアと婚約していた。ある日、土砂降りの横断歩道列でジェーニャという男性がレナにレインコートを貸したことから二人は電話友達になる。レナは母親から結婚の時期を問われ内省を深めていく。。。

前作「私は20歳」に続いてソ連の同時代精神を描こうとしていた。同作は脚本シュパリコフと同世代の20代前半の若者たちを描いていたが、本作は30歳の女性が主人公。とりとめのない会話劇が増えた点にはヌーヴェルヴァーグのインテリ気取りの風潮が感じられたが、女性を主人公に実存について考察するのはアントニオーニ監督を(前作とは違った意味で)想起させる。

一方、劇伴の選曲とフィラー使用は印象深かった。中でも終盤手前、自分の大好きなスウィングル・シンガーズの「バッハ・パルティータ第2番」(1963)をまるまる4分間も使ってモスクワの風景を映し出すシークエンスには痺れた。序盤にはルイ・アームストロングによる「バラ色の人生」(1950)が流れ、“雪解け”によってソ連に入って来たアメリカ音楽が既に同時代を懐かしむかのように使用されているのが興味深かった。

フルシチョフ首相時代(1953~1964)に始まった“雪解け”は、次のブレジネフ首相によって新たな締め付けが行われ、本作公開の翌年にチェコ「プラハの春」(1968)鎮圧をもって終焉を迎える。ラストシーンで映し出されるモスクワの若者たちの顔、顔、顔のカットからは、彼らの不安な未来に対するフツィエフ監督の祈りが伝わって来た。
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