KnightsofOdessa

七月の雨/夕立ちのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

七月の雨/夕立ち(1967年製作の映画)
5.0
[モスクワを歩く横移動の魔法] 100点

人生ベスト。フツイエフといえば半年くらい前にMUBIで「私は20歳」を上映してたが、2時間半とか私のような老人には厳しいので途中で諦めたという過去がある。本作品は104分と比較的見やすい上映時間なので先にこちらから片付けよう。60年代モスクワの情景をモノクロで切り抜く上手さと言えばダネリア「私はモスクワを歩く」という最強の映画があるわけだが、本作品はそこに手持ちカメラによるロケ撮影や大胆なジャンプカットなどヌーベルヴァーグ的な側面が加わって、更にパワーアップしている。横移動の長回しとか本当に街でゲリラ撮影したんじゃないかという感じで、歩行者が若干カメラを気にする姿を"主人公レナもカメラに気付いている"という設定に組み替えることで観客が彼女を追っているかのような錯覚に陥らせる、これを魔術と呼ばずして何を魔術とするか。

物書きのヴォロージャと付き合っている若い女性レナの日常を丁寧に切り取り、彼女とその周りにいる男たちの生活を描写する。20代も終わりに差し掛かり、ヴォロージャとの関係が何にも発展しないと気付いてしまったレナは、周りにいる人間との関係も見直し始める。「私はモスクワを歩く」が人間喜劇であったのに対して、本作品は人間の内面を見つめ、同時に当時のソ連の内面を具現化した人間を配することで同時代をつぶさに記録している。男に従属する人生より自身の独立性を重んじたレナが街に出掛けるラストは涙なしに語れない美しさを持つ。ただ一つの難点は私にとっちゃ少し時期尚早だったことかもしれん。

卒論のせいで精神状態がイカれてきているのは心配だが(昨日なんか同期に絶対零度って何Kだっけとかいうアホみたいな質問をしてしまった)、本作品のような美しい作品に出会えたから良しとしよう。最近は採点が甘い気がする、昔に戻ってるじゃないか。
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