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永遠のジャンゴの東京キネマのレビュー・感想・評価

永遠のジャンゴ(2017年製作の映画)
4.0
どうも私は根っからのへそ曲がりなもんですから、こういった映画は素直に見れない性分で、左翼が大好きなポリコレ・ブームの延長でこの映画も企画されたんだろうなあ、と思いながら観たのですが、そうでも無かったのでちょっと救われました。

ジャンゴ・ラインハルトはジャズ好きでしたら誰でも知っているレジェンドではありますけれど、映画の主題として使えるかと言えば、そりゃあ無理でしょうとなるのはある程度想定されることですから、それ故、とにかく何でも良いからドラマティックな補助装置が必要という余り、バック・アップ・ストーリーを作為を込めててんこ盛りにした結果、本来の音楽映画としての楽しみが削がれてしまったように思います。

ジャンゴ・ラインハルトはジプシー、ヨーロッパのジプシー・ジャズ・ブームは丁度ナチズムと同時代、ジプシーは強制収容所入りで民族根絶やしになりそうだった、てなてな話を繋げりゃ「ギター1本でヒトラーと戦ったギタリスト」の感動大作が出来上がりな感じが見えちゃう訳で、ちょっと白けてしまうのです。で、やっぱり想像通り、サイド・ストーリーはすべて隔靴掻痒、じれったくて答えがありません。「ジプシー」に関しては開巻、相も変わらずの鬱陶しいワーニング。これで「ジプシー」という表現はダメですとアリバイ作り。ナチズムに関しては、当たり前の事ながらヒトラーとギタリストが戦える訳はなく、逃げまくり、逃げまくり、逃げ切った、というだけです。(但し、銃殺も強姦もハンギングもなしで、これだけナチを嫌らしく描ける演出力は素晴らしいですが)民族根絶やしと言ったって、ジプシーとロマは同じ民族じゃありませんので(というより定義が違う)、ユダヤのようなジェノサイドにも持っていけない。

まあ、こういった次第ですべてが中途半端なのです。でもね、音楽シーンはそれを払拭するくらい素晴らしいのですよ。フランス・ホット・クラブ五重奏団の演奏を直に観た感動がありますし、レダ・カテブの2本弾き奏法も鳥肌もんでした。だからね、こんなポリティカルなストーリーは止めて『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』のように作りゃ良いのにと思うんですよ。ストーリー8割で音楽2割じゃバランスが悪しですよ。逆ですって。音楽の中にドラマがあるんですよ。ステファン・グラッペリとの友情物語にしても、ジャンゴの火傷の話にしても、レクイエム作曲に至る経緯も、音楽を聴けば体感的に感動できるのになあ、と思うんですけどね。。。
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