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アイスと雨音のlpのレビュー・感想・評価

アイスと雨音(2017年製作の映画)
5.0
第30回東京国際映画祭にて鑑賞。日本映画スプラッシュ部門の作品。

昨年はコンペに『アズミ・ハルコは行方不明』を出品した松居大悟監督が、出演舞台の中止を発表される6人の若者達の1ヶ月を、74分ワンカットで描いた野心作。「映画」と「テレビ」の違いをぼんやり考えると、いつも「CMを入れる余地が無いワンカットの作品は、テレビでは出来ない表現だよな」という答えに行き着く訳で、ワンカットの映画はそれだけで価値がある。そこへさらに今作は「1ヶ月」を映画の中に盛り込むとあって、これはもう「一体どうやるんだ!?」と思わずにいられなかった!
そんな訳で、今回の東京国際映画祭で最も期待していた今作。実際に観てみたら、期待に違わぬ年間ベスト級の大傑作でした!!!

全てが剥き出し!そして全てが直球勝負!荒々しさも多分に残しており、賛否は分かれると思うし、実際に自分も言いたいことが無い訳ではない。ただ、他の映画には無い面白さを提示してみせた今作には、最大級の賛辞を送らずにいられない!

全編ワンカットがもたらす独特の緊張感はやっぱり最高だし、MOROHAの音楽も最高!映画本編を上回る勢いでMOROHAの音楽が良いので、少し焦った・・・と言うか「これで良いのか?」と思うところはあったけど、MOROHAも映画に出演しており、生演奏であることを踏まえれば、そこはご愛嬌。映画の中で音楽の持つ力が大きいことは、多くの映画監督が認識する(実際に今回の日本映画スプラッシュでも、『飢えたライオン』の緒方監督は音楽に観客が流されることを避けるべく、音楽の使用を避けていた。)ところであるけれど、今作は出演するMOROHAによる生演奏を採用したことで、音楽の強烈な力を映像の力に同化させている。これは音楽がテーマの映画以外では、おそらく初めての体験だった!

ストーリーは、監督自身の舞台公演が中止になった経験がベースにある(←これは是非とも観賞前に知っておいて欲しい事実です!)とのことだけれども、その経験から時間を空けずに撮られた今作には、監督の激情が焼き付けられている。これが凄い!映画は一気に突っ走り、「あの時、こうしたかったんだ!」という監督の叫びがこだまする。挫折や後悔、やりきれない想いを抱えた経験のある人は必見です!ちなみに自分も3回ぐらい感涙しました。

ワンカットに関してもう1つ特筆すべきことは、今作は「ワンカットだから新しい」で終わるのではなく、「カメラが途切れないこと」を駆使して、心情表現を効果的に行っている点もポイントが高い。舞台公演の中止が発表された直後の劇中劇→主人公の独白→そして・・・と続くこの一連の流れは、映像が途切れないからこそ際立つものがあった。

全編ワンカット、音楽は生演奏、現実と劇中劇が入り乱れる複雑な展開。これだけ難しい条件が揃いながらも、完璧な仕事をしてみせた若いキャスト陣も最高!特に主演の森田想は74分出突っ張りで、最後まで素晴らしい演技を披露しています。今後の活躍が非常に楽しみ!

基本的には大絶賛だけど、イマイチだった点が2つある。1つは劇中で流れる「1ヶ月」の時間経過の見せ方が直接的過ぎたこと。画面の細部から時間の経過が感じられるので、それだけでも充分凄いけど、欲を言えばもう一歩予想を上回って欲しかった!もう1つは、稽古の合間に6人の「素」が垣間見えるシーンがあるのだけど、このシーンはワンカットによる緊張感との食い合わせの悪さもあって、上滑りしているように感じた。ただ、どちらも些細なことなので、作品の評価には影響なし!

監督の激情が映画に焼き付いている時点で稀有な作品ですが、製作の背景も奇跡的。松居大悟監督の舞台が中止になり、その事をMOROHAに話したことがきっかけで、今作が誕生したという・・・この奇跡のような流れが完璧すぎる!あと、エリザベス宮地によるドキュメンタリーも気になる。

他の映画にはない映画体験が出来る大傑作でした!控えめに言って「最高」です。
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