Iri17

心と体とのIri17のネタバレレビュー・内容・結末

心と体と(2017年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

人付き合いが苦手で、感情を表に出すのが苦手な人間にとって、自分の気持ちが伝わらない、裏切られるということほど恐ろしいものはなくて、だからこそ気持ちを伝えることを恐れて、人と距離を開いてしまう。そういう人は、変わっているのではなく、むしろこの複雑な現代社会には純粋過ぎるためであって、自分は理解されない、他人なんて理解できないという気持ちを常に抱えている。
このような気持ちを抱える人には2タイプいる。1つは自分の殻に閉じこもって、極力他人との接触を避けようとする、関わりたいけど上手くできない人。もう1つは、本当の自分を隠して、明るくテンション高い人を演じて過ごす人たち。後者のタイプは人生上手くやっているように見えて、実は2つとも同じくらいの孤独に苦しんでいる。

この映画では、女性は前者、男性は後者だと思う。男性は明るくはないし、感情的ではないが、普通にコミュニケーションが取れるし、仕事は出来ているが、好きになった女性には気持ちを表現できない。
女性はケータイも持っていないし、セラピストくらいしかまともに会話できない。
2人の不器用さが表現されているセックスシーンはこの映画の名シーンと言えるだろう。童貞と処女の中学生でもこんな不器用なセックスしないよ!

心を通わせる事が出来ない2人が接近するきっかけとなった鹿の夢は、現代では珍しいくらい純粋な2人への神からの贈り物とも取れるかもしれない。『聖なる鹿殺し』なんて映画もあったし、『もののけ姫』のシシガミ様もそうだが、鹿はとても神聖な動物だ。それにハンガリーというのはヨーロッパ屈指の保守的な国で、キリスト教、特にカトリックに熱心だ。鹿が宗教的な意味を帯びている可能性は充分考えられる。

唯一信じた存在に裏切られたと感じた時に、女性が自殺しようとした気持ちは僕は痛いほど分かる。だからこそその先に2人が幸せそうに笑うラストは尊い。現実はこう上手くはいかないが、遂に心を通わせる大切な人間が出来たのだ。
そして、鹿が消えた。苦難を乗り越えた2人にはもう神の手助けは必要ない。そうして神は去っていった。このラストは最上のカタルシスを与えてくれた。

『サウルの息子』以来のハンガリー映画だったが、素晴らしい作品でした。

ちなみに食肉処理場のシーンが生々しくて、肉が食べづらくなります。こうやって牛は屠殺されてるんだな…
動物の撮り方が超上手くて、まるで感情を持った人間のように撮っているのと、最後テロップで「動物を傷付けるシーンがありますが、普段の食肉処理場の様子です」なんて出るもんだからますます肉が食べづらくなりました…
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