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心と体とのkyokoのレビュー・感想・評価

心と体と(2017年製作の映画)
4.2
ハンガリーの食肉加工場。代理検査員としてやってきた若くて美しいマーリアと、その上司で片手が不自由なエンドレの、異色のようで直球なところもある恋愛譚。
期待した以上に良かった。

マーリアは他人とのコミュニケーションがうまく取れない(肉体的な接触も×)。仕事も忖度一切ナシ。
エンドレもまた仕事や人間関係に一線をひいていて、日々消化するだけのような枯れた毎日を送っていた。
種類は違えど何かが欠落した年の差男女が、ある事件をきっかけにしてお互い同じ夢を見ていることを知る。
二人が見る夢の中の鹿の姿が神々しいまでに美しくて、まずそこに心を奪われてしまった。

生まれてはじめて「人を愛すること」を知ったマーリアの、コミュニケーションの術を懸命に摸索する姿がものすごくかわいくていじらしい。そんな彼女をとりまく人たちの眼差しが温かいのもいい(CDショップのおねえさんとか掃除のおばさんとか児童心理カウンセラーとか)。
あんなに枯れてたエンドレも、だんだんと若々しくなって、このままふたりは愛に向かって一直線となりそうなところだが、いろんな意味で不自由さを持ったふたりなだけに、最後まで気が抜けない。

牛の屠殺過程を映すシーンはあまりにも残酷で直視するのが難しいが、エンドロールで流れた「動物を傷付けるシーンがありますが、普段の食肉処理場の様子です」というさらりとしたテロップにハッとする。

人を愛することも動物を殺すことも生きるためには必要なこと。



エンドレ役のゲーザ・モルチャーニという人が、これが初演技だと知ってびっくり。本職は翻訳家や編集者らしい。
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