イルディコ・エンエディの久々の新作にして金熊賞受賞作にしてアカデミー賞候補作ということで結構期待して見たのだが、存外その期待を下回る内容となっていた。
簡単に言えば僕の地球を守ってやクラウドアトラスをミニマルにしたような話になっているのだけど、男女の夢と現実の問題が何の捻りもなくセックスに帰結していたのが実に薄っぺらかったし、そもそも夢と現実で生物が違って性別は同じっていうのがありきたりすぎた。
人物や舞台の設定も、心的もしくは肉体的に軽度の障害を持つ者同士の交流ってのはまだわかるけれども、屠殺場という舞台は鹿と同じ有蹄類の牛が殺されているからという理由以外に思いつかず、上手く機能していないせいで取って付けたような印象を受けてしまった。
ちょっとCG臭がしたとはいえ鹿の夢のシーンは魅力的だったし、自殺未遂のような深刻なシーンにおけるものに代表されるいくつかの滑稽な演出も面白味はあったのだけど、大前提となる主題にそこまで魅力を感じなかったりブレッソン風な映像に過去作品に見られるイルディコ・エンエディらしさが無かったりしたせいで、全体として自分には満足しかねる出来となっていて残念に思う。
しかし映画を梯子すると、メインディッシュと目していた作品が期待外れだった一方で前菜的な作品がそこそこ楽しめた、なんて場合も偶にあるけどこれはこれで予想外で面白いから困る。