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心と体とのardantのレビュー・感想・評価

心と体と(2017年製作の映画)
4.5
素晴らしい作品だった。

年齢を重ねるにつれて、映画をみるということは、既視感との戦いになる。十代の頃の、何を見ても、自分の世界では新鮮と感じられるものがだんだんなくなっていく。そうして、感動できる作品が少なくなっていくのだ。
その面では、この作品の発想の非凡さ、新鮮さに感嘆を覚えた。

本作品は、何のために生きているのか、何のために生活しているのかもわからない、社会生活不適合者と思える無口な男女の恋愛の物語である。彼らは、ある事件をきっかけに、自分たちが、同じ夢を見ていることに気付かされる。その夢は、つがいの鹿が、雪の森を駆け回るものだった。

前半は退屈だ。しかし、それを我慢すると、中盤から一気に画面に引きずり込まれることになった。自閉症を克服しようと、自発的に、映画を観、CDを聴き、触れ合いの訓練のために牛の背中をなでる女の努力の姿が、涙を誘う。
作品の最後に、どうして、自分達が同じ夢をみなければならなかったのかが、男の質問に対する女の答えによって、明らかにされることになる。
そして、彼らはそれから同じ夢をみることはなくなるのだ。

この作品を、私にとっての第二の故郷である札幌でたまたま観た。私が住む横浜でさえ、まだ公開されていなかったのに。
映画館はシアター・キノだった。良質な映画を、北の街で公開し続ける姿勢に敬意を覚える。おそらく、もぎりをしていた高年齢の男性は札幌の映像作家中島洋氏だったような気がした。35年ぶりだった。

私は、胸が一杯になっていた。
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