多摩川

スキン~あなたに触らせて~の多摩川のネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

左右対称の世界に生きる、どこか欠けた人たちが織りなす物語。

冒頭カメラが引いた瞬間のおばちゃんヌードに吹き、以後このテンションが続くと思うと「マジカルガール」を連想せずにはいられなかった。スペイン映画は得てしてこのような突然のフキンシンによる笑いを誘発する気概に溢れているような気がする。サンリオピューロランドさながらのメルヘンカラーに溢れた世界は圧巻で、美術の底力を感じた。特に気に入ったのは”左右対称”の演出。セットがほぼ左右対称に組まれており、眼の無い少女を始めとした"非対称な"登場人物を中心に据えてロングを撮影した瞬間、彼らを引き立たせる効果を発揮したように思う。このあたりはピーター・グリーナウェイ監督作品「ZOO」を彷彿とさせるようでもあった。

凹凸を補うように、登場人物が相思相愛(又は悲願の成就)の図を完成させていく様は、欠損状態が必ずしも「損をすること」ではないように思わせる力があった。しかしこの映画はこのような前向きな感情を抱かせるために作られた作品ではないことを願う自分もいる。あくまで単なるブラックユーモアの吐き出しであって欲しい、そこに教訓めいた意味付けなどしないで欲しい、そういうジャンルがあってもいいのでは、と思わせる何かがある作品だった。

異形の女性しか愛せない男・エルネストが、想いを寄せる女性に「あなたは私の外見だけが好き。私のことなんてちっとも見てないのね」と一蹴され、別れを告げられるシーンがある。傷心したエルネストは陸橋から自殺を図るが、奇しくもそこで肛門と唇が逆転した少女・サマンサに出会う。「外見しか見ていない」と言われた男は、またもや外見で恋をする。「普通の外見」に憧れる少女は、初めて好意を向けられ、念願のキスを果たす(肛門の形をした唇で)。人の好みは十人十色で、美の価値観はそれぞれにして大きく異なるということを再認した。不幸のどん底にいるように思われた各々が、最終的にはそれぞれの形のハッピーエンドに終着し、大変面白い一作だった。
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