ノラネコの呑んで観るシネマ

兄が教えてくれた歌のノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

兄が教えてくれた歌(2015年製作の映画)
4.5
MUBIにて。
クロエ・ジャオの長編デビュー作。
「ザ・ライダー」と同じく、サウスダコタのパインリッジ・リザベーションが舞台。
大学に進学するガールフレンドと共に、希望を持てない故郷を出て、LAに移住しようとしている高校生の葛藤を描いている。
登場人物の多くが例によって本人。
一作目にしてセミドキュメンタリー的な作風が完成してるのも凄いが、「ノマドランド」から遡るにつれてマリック風味が増してゆく。
広角の奥行きの使い方なんてまさにだし、本作のオープニングなんてほとんどまんまだ。
「ザ・ライダー」で主人公の背景にあった閉塞の正体が、こちらでは前面にだされているという意味で、実質二部作。
パインリッジは、400年に渡るインディアン戦争の終結地、ウーンデッドニーがある場所。
荒野と草原のリザベーションには、ほとんど産業が無い。
失業、貧困は最悪のアルコール依存をもたらし、多くの家庭は崩壊。
若者の犯罪率・自殺率も非常に高い。
それでも、彼らにとってはこの土地こそがアイデンティティなのだ。
リザベーションを出るということは、愛する家族と共にアイデンティティを捨てることを意味する。
この映画、何も知らずに観たら、オグララ・スー族の作家が地元で撮った作品と思うかも知れない。
「ザ・ライダー」も「ノマドランド」もそうだったが、クロエ・ジャオのマイノリティへの強い共感力は、やっぱり自分の経歴が影響しているのだろう。
実に面白い作家だ。
ブログ記事:
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