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MOTHER FUCKERのalmosteverydayのレビュー・感想・評価

MOTHER FUCKER(2017年製作の映画)
3.5
タイトルは英語圏の侮蔑用語ではなく、FUCKER名義でソロ活動を行うバンドマンにしてレーベル代表を務める夫と、音楽的同志であり共に息子を育てる母=MOTHERでもある妻、つまりひとつの家族を表したもの。一人息子が小学3年生にして周囲の大人たちとパンクバンドを結成、初ライブを迎えるまでを主軸に家族とレーベルを追うドキュメンタリー映画です。

映画の造りとしてこれほどまでに荒々しく「分かる奴だけ分かればいい」というスタンスを貫いているのはいっそ爽快なほど、予備知識のない鑑賞者への説明的配慮は皆無。わたしは妻のゆかりさんが在籍するリミエキが好きで、でぶコーネリアスやジャポニカソングサンバンチで活動する藤田千秋氏も登場するというのが主な鑑賞動機なものですから、出てくるバンドが8割がた初見でした。正直言って玉石混淆、しかしレーベルとしての振れ幅の大きさや懐の深さはしっかり伝わってきた辺り、情熱や思い入れだけではなくフラットな視点も含めて取捨選択が行われたのだろうと感じさせられます。

心配なのは「息子はちゃんと大人になれるのだろうか」という一点のみで、それはよくありがちな「爆音と刺青だらけの大人たちに囲まれてたらろくな大人にならないでしょう」といったくだらん話とはわけが違います。たった8歳で周囲の大人たちと肩を並べて過ごして、対等に扱われながらも暖かく見守られていて、このまま行ったら彼は一度も「大人は判ってくれない」という通過儀礼的葛藤を経ることなく歳を重ねてしまうのではないか、それっていつか逆にしんどくならないか、とつい考えてしまったのでした。10年後の彼をもう一度見たいです。望む続編。できれば爆音上映で。

それにしても。夫・谷ぐち順さんは、常に口角が上がっているような緩んでいるような地顔がまるで福神様のようでした。ゆかりさんが惚れるの、わかる…と深く納得した次第であります。
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