ミヤザキタケル

わさびのミヤザキタケルのレビュー・感想・評価

わさび(2016年製作の映画)
3.7
わさび
8/26公開「映画監督外山文治短編作品集」の一作ですが、一足早くレビュー。

岐阜県 飛騨高山
寿司屋を営む家庭で育った女子高生 葵(芳根京子)は、鬱で苦しむ父(杉本凌士)を支えながら 進路の決断を迫られていた。
離婚し離れて暮らす母(富田靖子)や教師の言葉は葵に届かず、進学せずに寿司屋を継ぐ決心をさせてしまう。
真に彼女に寄り添う大人が不在の中、葵はかつて所属していた野球チームの監督 梅田(下條アトム)と再会するのであった。
大人になることを余儀無くされた少女の葛藤を通し、切っても切れない家族の繋がりを描いた作品だ。

家族
それは大切で 掛け替えがなくて 絶対的なモノに感じられる
が、時にそれが枷となることだってあると思う

家族だから支え合う
家族だから助け合う
家族だから見返りを求めない

裏を返せば
家族だから突き放せない
家族だから見捨てられない
家族だから見返りを求めてはいけない
葵の場合、全てが後者であった。

優しいヤツが お人好しなヤツが損をしがちな世の中
何事においても因果応報ならいいけれど、その通りだとは思えない現実が多過ぎる
弱きを助け 悪しきを挫く
愛と勇気の塊 アンパンマンのようにはいられない
彼と同じ行動ができたとしても、そこに心は伴わない
数多の自己犠牲を払う葵の笑顔には、常に不安が付き纏っていた。

スクリーンに映る少女は間違いなく女子高生で子どものはずなのに、大人に見える
それも、諦めることを知り 叶わぬことが多いことを知り 抗えない現実を前に沈黙せざるを得ない者の表情をしていた
葵演じる芳根京子ちゃんは間違いなくカワイイはずなのに、カワイイだとかの視点で葵を見つめられない
自分が彼女と同じ年齢であった時、あんな表情をしたことがあっただろうか
あんな葛藤を強いられたことはあっただろうか
他人と自分の家庭問題を比べるものではないが、負い目にも近い感情が湧いてきて 彼女を直視するのがツラかった。

高校卒業と同時にあらゆる可能性を手にする者が多い中、彼女の可能性は限りなく狭まっていく
それを自覚し 受け入れようと 諦めようと 前を向こうと、彼女は懸命に足掻いていた

偶然に梅田との邂逅を果たし、葵はあらゆる想いと決別を果たす
縋れるモノを全て断ち切ったのだと思う
だからこそ、踏み出すしかもう道は残されていなかった
ドン底まで堕ちることができたのなら、後は這い上がるしかない

彼女と置かれている状況が違くとも、目の前の現実にもがき苦しんでいる者にならきっと届くはず
彼女が迎えるラスト
父と交わす言葉のキャッチボールに涙する。

タイトルでもある わさび
人によっては必要だし、人によっては必要ない
その在り方は家族の関係性に少し似てはいないだろうか
子どもの頃は家族がいるのが当たり前であった
家族のありがたみを何も分かっていなかった
反発することもあれば、不必要だと思ってしまうことさえあった
時が経ち親元を離れ 大人になるにつれ、家族のありがたみを自覚する
一度自覚したが最後、無くてはならないモノへと変貌する

一見 今作の在り方とは無縁に感じられるが、冒頭で排水溝へと落っこちたわさびは 無くてはならないモノへと変貌していた
わさび無くしてあのラストは迎えられない。

たった30分の上映時間
ありとあらゆる想い 葛藤が凝縮されていた
短編映画 おそるべし

ぜひ劇場でご覧ください。

青春★★★
恋 ★
エロ★
サスペンス★★★
ファンタジー★★★
総合評価:B