このレビューはネタバレを含みます
朝ドラ以来推している女優さんが主演の短編映画。
渋谷のユーロスペースで観賞。初めて行ったのだが、すごい小ぢんまりした空間にあからさまに業界人です感全開の人々……東京の人も一見さん御断り感めっちゃ出してくるやん。(周りで業界人同士の挨拶ぺこぺこが連発していて、映画を見る前に若干疲れた。)
そんなエピソードはさておき、映画は飛騨を舞台に、うつ病になった板前のシングルファザーと、その娘のお話。
娘は青春の迷いを乗り越えて父の後を継ぐ決意をするのだが、その大人への脱皮はとても美しいシーンだった。
また、全体を通して飛騨の高地ゆえの張り詰めた透明な空気が綺麗に映し出されていて、少し標高の高い町に生まれた身としては、寒気がするほどの映像のリアリティーだった。思わず、自分の吐く息も白くなっているんじゃないかと錯覚するような。
疑問を感じたのは、作中で「女性が板前になれないのは、生理で体温が変わるからシャリの温度に影響があって〜」という大問題が明らかにされている割に、それに対する回答が曖昧な点。
主人公の意志の問題よりも、どちらかというと根本にあるその問題を等閑してしまい、作品のリアリティーが失われてしまった感。そういった困難なんて気にしない!今はとにかく突っ走る!的な強いノリならまだしも、父親はうつなのだし、現実から目は逸らした決断は客観的に見てまずいわけで。
そういった進むも地獄引くも地獄的な絶望感を、「私の人生、甘くないっス。」とコピーしたのかもしれないが、だとしたら下條アトムさんとの感動的なシーンは、ただ一時の気を紛らわせただけなのだろうか。
この作品で一番美しかったあのシーンが、将来主人公にとって恨めしい記憶に成り下がってしまうような、〈消費〉されるようなシーンなのだとしたら、あのシーンに心底感動する鑑賞者の気持ちは何だったのだろう……。
written by K.