ミヤザキタケル

ミヤザキタケルの感想・レビュー

春なれや(2016年製作の映画)
3.7
春なれや
8/26公開「映画監督外山文治短編作品集」の一作ですが、一足早くレビュー。

熊本県 菊池市
「ソメイヨシノは60年咲くことができない」という説の真偽を確かめるべく、かつて交わした約束を果たそうと老人ホームから一人の女性(吉行和子)が姿を消す。
警察(篠原篤)に身元不明として保護されるも、偶然居合わせた青年(村上虹郎)を案内人として連れ出し 約束の地である廃校を目指すことになるのだが…。
老女と青年の交流を通し、心の在り方次第で『希望』はいつだって見出せることを描いた作品だ。

美しくも恐ろしく 不安だけど心地良い
そんな作品であった
それは捉え方 受け取り方次第で、どちらにでも転じる可能性を秘めていたからだと思う

年老いた女性の視点を通すのと これから数多くのことを知っていく青年の視点を通すのとでは、見えてくるモノが異なる
そんな二人が共に歩むから それぞれの想いが調和していくから、たくさんのモノを感じられる。

知らないでいる内が
得られないでいる内が
程良い距離感を保っていられる内が
最も心が潤っている時なのかもしれない
もちろんゴールには辿り着きたい
成果も得たい
が、達してしまえば最後 また新しい何かを探し求める必要がある。

好物だからといって食べ過ぎると飽きてしまう
好きな場所だからといって通い続けていると、当たり前の場所と化していく
お気に入りの服だからといってヘビロテしていると、スグに傷んでしまう
好きな曲だからといって目覚ましのアラームにしてしまうと、いつしか目覚めの不快な音楽に聴こえてくる
好きな映画だからと何十回も観ていると、構造を把握し過ぎて初見時の感動が薄れていく
好きなAV女優だからといって同じ作品の同じシーンばかり見ているとイケなくなる

どんな形にせよ、手にしてしまった途端 対象物の在り方は大きく変わる
宿していたはずの特異性も徐々に失われていく。

劇中に映る美しい桜もそう
その美しさが示されてしまった以上、後は散っていくのみ
美しいということは儚いということ
目に見えるモノは何だってそう
大事なモノから消えていく

何かを手にするということは、同時に何かを失うということ
約束を果たすということは、約束を通して築かれてきた日々の真価が問われるということ

知らないでいられたからこそ得られた衝動
維持できたモチベーション
それらを欠いてしまった時、それまでのようには生きられない
変化を受け入れなければ前へ進めない

あらゆる価値観を 多様性を受け入れる
凝り固まった思考や習性から脱することは容易ではないが、手放す勇気 受け入れる覚悟を手にすることさえできれば 自ずと道は切り開く。

数少ない言葉のやり取りの中に、二人は光を見出していく
光と言ったら大袈裟だけど、可能性のカケラを手にしていく
目には見えない確かなモノを心に宿し始める
その有り様を目の当たりにし、観客の心にも微かな変化が訪れる
二人の姿はそのキッカケを与えてくれる。

美しい桜並木を通り廃校を目指すほんの僅かな道のりであったが、ぼくにはソメイヨシノを探し求めて旅する二人のロードムービーに感じられた
2人乗りする自転車のシーンが、「モーターサイクル・ダイアリーズ」のバイクシーンと重なった。

たった20分の上映時間
中身が伴っていれば時間なんて関係ない
短編映画の可能性は未知数だ!

ぜひ劇場でご覧ください。

青春★★★
恋 ★
エロ★
サスペンス★★
ファンタジー★★★
総合評価:B