柊

しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイスの柊のレビュー・感想・評価

3.8
孤独な2人が出会ったからこそ生まれた関係で、初めから愛ありきではない事はまず抑えるべき点だと思う。1人で生きる事に精一杯なエベレットには日常に愛がある事など知る由もない暮らし。かたや、リウマチで家族の厄介者扱いのモードにも居場所がない。そんな2人が雇い主と家政婦と言う立場で出会った事からストーリーは展開していく。
でもよく考えるとモードは何も変わっていない。儚げに見えるけど芯の強さは計り知れない。我が子の死産と言う闇を抱えつつ、絵を描く事だけが彼女の生きる全て。そんなモードを初めからエベレットは無骨ながら受け入れていたのだと思う。犬や鶏と言う一方通行の関わりしか知らないエベレットには共に生きるという考え方など存在していないけど、はみ出し者2人の波長が心のどこかで共鳴したんだろうな。それを愛と知る事に時間がかかったのだと思う。モードの絵が家中に溢れるみたいに徐々に時間をかけてエベレットが人間になっていったのだと思う。ありのままの自分を受け入れてくれて、好きな絵で生きていけたモードという画家が生まれたのは、そんな過程があったからだと思う。お金儲けの為の絵では無く、不便な生活を送り、
ささやかな暮らしを続けていたからこそのモードの絵の世界なのだと思う。小さな窓ガラスから見える美しくも厳しい自然の世界。溢れるほどの豊かさではなく、両の手に収まる幸せ。
何でも手に入れる幸せではなく、大切な人との必要な物だけを選ぶ幸せ。価値観とは何か?自分の望む価値観で生きられる幸せって大事だとつくづく考えさせられる。
愛の表現も人それぞれ。リウマチのモードを荷車に乗せて歩くシーンが凄く好き。

それにしてもイーサン・ホーク、無骨な男が似合ったね。昔の線の細いイメージはいづこ?パズーの親方みたいだった。サリー・ホーキンスはどこか難ありな役が続いていますね。脇でも当然いけそうだからこれから期待大な女優さんだ。
柊