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しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイスのsacoのレビュー・感想・評価

4.0
画家モード・ルイスの事は、今回の映画で初めて知った。差別や辛い現実を程よいユーモアで跳ね返すモードの芯の強さをホーキンスは『シェイプ・オブ・ウォーター』とはまた違う、まるで画家が乗り移ったような迫真の演技で好演していたと思う。
粗末な小屋で共同生活を始めたふたりだったけど、無骨で粗野なエベレットが、モードに辛くあたる。その寂しさと悲しみの中で彼女が心の赴くまま濁りのない色彩で壁に描いた絵が、無味乾燥の小さな家を穏やかな輝きで包んで、やがてエベレットの孤独な心をも緩やかに満たしていくという過程をとても丁寧に描いていて良かった。全体的に往年の名画の雰囲気、フェリーニ作品などと同じような印象も受けた。
噛み合わなかったふたりの関係が少しずつ重なり絆が芽生えていくところも良い。その部分を、街から小屋までの長い道で日を追うごとに歩くふたりの距離が近くなる映像で見せる演出は秀逸だった。
逆境の中で、育まれる夫婦の絆を描きながら、「どんな人生でも自由な精神で楽しめば素晴らしいことが待っている」を実感させる魅力的で人間味のある優しい作品だと思った。
イケメンのイメージしかなかったイーサン・ホークスが意表をつく役柄と容貌で、頑固だけど繊細な優しさを秘めた夫を渋く好演して胸を打たれる。
乾ききった大地に優しい涙がじんわりと染み込み潤うような物語、こういう作品はずーっと心に残り続けて、折に触れて思い出すと思う。
地味な作品だが見逃さずに観て、とても良かった。
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