ハル

デトロイトのハルのレビュー・感想・評価

デトロイト(2017年製作の映画)
4.0
1960年代、白人と黒人の人種間対立は極点に達した。そして、1967年、アメリカ第5の都市デトロイトにおいて、黒人たちによる暴動が発生した。これを鎮圧すべく警察や州兵が投入され、街はほとんど内戦状態と化した。事件はそんな中で起こった。

市内のモーテルにいた黒人の一人が戯れに取り出したおもちゃのピストルで警察や州兵たちを挑発。これを狙撃と捉えた数人の警官たちが、関係者たちに暴力を用いての違法な尋問を行った。

混沌の中で起きたこの事件は、50年の時を経て、遂に映像化された。それが今作の「デトロイト」である。


ものすごいものを見せられた、というのが正直な感想である。それも、「強烈」という表現で片づけるにはあまりにも度を過ぎていて、あたかも、映画が一種の暴力装置となって精神に迫ってきたかのようであった。期待されると困るので言っておくが、そこに「怒り」が入り込む余地はなかった。

アメリカ社会の闇に触れて、社会正義に燃えたり人権感覚を持ったりするほど、私は殊勝な人間ではない。そんな人間だったら、今頃、頭を丸めて坊主にでもなっているだろう。

私が恐いと思ったのは、単に「人間の狂気」である。混沌状態に置かれた人間は簡単に残酷になれてしまう。それは古の時代から変わらぬ厳然たる事実であって肌の色など関係ない。

私が人権派の優しい人間だったら、もっと参考になるレビューを書けたかもしれないが、今回はこれくらいしか言うことがない。

私の中で尾を引いたのは、差別する者への怒りでもなければ差別される者への憐れみでもなくて、極限状態における人間の本質のみであった。
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