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デトロイトのTSのレビュー・感想・評価

デトロイト(2017年製作の映画)
4.1
【権力という名の絶対的武器】86点
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監督:キャスリン・ビグロー
製作国:アメリカ
ジャンル:ドラマ
収録時間:142分
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2018年劇場鑑賞4本目。
1967年夏にデトロイトで実際に起きた、黒人による暴動を描いた話です。思っていたものと少し違いましたが緊迫感は十分。そして実話ならではの悔しさというか虚しさもきちんと内在しておりました。現代から俯瞰すると、この後公民権運動が起こり少しは改善されたことを知っているため気持ちはなんとか抑えられますが、リアルタイムでこの出来事を目の当たりにすると、とにかく悔しさしか残らない、いや憎しみしか残らないものだと思われます。

冒頭から妙な緊迫感に包まれてしまいます。最初のアニメーションも掴みはバッチリであり、この映画がどの時代の何を描きたいのかしっかりとわかります。出だしをきちんとしている映画は大概良い。方向性が鮮明に見えるからでしょうね。結果、前情報ほぼなしで見ましたが、かなりの満足度でありました。
デトロイトはアメリカ北東部にあるミシガン州最大の都市であり、かつて自動車工業で栄えた都市としても教科書的に有名です。しかし、およそ50年前にこのデトロイトで起きた痛ましい事件を一体どれだけの人が知っていたのか?偉そうなことを述べている自分もほとんどこの暴動事件について知らなかったので顔を赤らめるばかりです。よく知られるキング牧師による公民権運動はその一部でしかないということを知らしめさせられました。権力という名の絶対的武器を用いて黒人を取り締まる白人警官。彼らもフラストレーションが溜まりまくっているのか、尋問をゲームと称し楽しむ節があるのです。しかし、その遊戯的行為が惨事を招いてしまいます。

今作の見どころはアルジェ・モーテル事件に尽きると思います。140分という短くはない尺の中で、この事件はかなりじっくりと描かれています。そして終盤の法定争いも中々。そしてその結果には唖然とさせられてしまいます。薄々わかっていましたが、これはあまりにも惨たらしい現実。所々で賛美歌を歌うシーンがありましたが、果たして神なんているのか。と疑いたくなるほど。

黒人は差別を受けてきたのだよ。というのは誰もが知っていることでありますが、このあたりまでの一連の事件を目の当たりにしておかないと、言うのも恐れ多いと感じました。黒人の方から、一体お前らは俺たちの何を知ってるんだ!と罵声を浴びせられそうです。やはり、どんな事象においても深い理解が必要であると思いました。

そこまでグロテスクな描写があるわけではないですが、精神的に中々くるものがあります。しかし、人権とは何かを見つめ直す良き映画であるとも思えます。そしてある人がぼそっと口にした「人権なんてややこしい問題に関わりたくない」が人間の性の全てを示しているとも思えました。結局、人間は自分の人生が一番大事なのです。火に油を注ぐようなことはなるべくしたくないのです。そんなことも考えさせられた硬派な映画でありました。アカデミー賞ノミネートに至らなかったのは残念で仕方ないですが、多くの人に見られるべき作品でしょう。
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