お湯

デトロイトのお湯のレビュー・感想・評価

デトロイト(2017年製作の映画)
3.9
一言で言うと、難しかった。
分からないとかそういうのじゃなくて、難しい問題をこの描き方で描いていいのか?どう描くべきなのか?それが難しい。
きっと答えは出ない、というのが、とりあえずのメッセージか。社会への問いかけのような映画だった。

李相日の『怒り』の暴行場面について、在沖米兵の犯罪が多いというのは本当なのか、『怒り』の米兵の描写は適当なのか、を大学1年生のときに論文に書いたので、色々思うところも多かった。
実際データ上(あくまでデータ上)では、日本人犯罪率よりも低く、米兵への犯罪イメージは不適当だ、という結論だったんだけど、米兵による残虐な犯罪があったことは事実である。
担当教員が『米兵は全員出ていけ』派だったので、かなり口ごたえした記憶がある。
データとかでは、どうにも結論付けられない問題だし、本当に難しい。今でも、どう考えたらいいのか分かりません。

今作において、確かに新たな偏見をうむような、問題のある描写はあったが、総じて、
黒人、白人、警察、工場勤務、男、女など、人種や性別、職業などで決めつけられない、個々のキャラ作りが良かったです。

歌が上手い人、友達思い、賢い、度胸持ちなど、性格や特技で特徴付けされたのが、遠いところで人種問題、性差問題の解決の糸口となっているような気がする。
そもそも、人が見分けつかなくならなかった。すごい。
あと、ラリーの歌声には感動した。

ホテルでの緊迫した場面は、心臓持たなかった……。あんなん体験したことないけど、リアルすぎるわ……。その場にいるような気がして、本当に魂すり減った。

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ジェンダー界隈?で、『女性だけの街に住めたら』というツイートが議論に上がっていたのを思い出した。
相手の経験や恐怖を想像し寄り添うことができなければ、性別や年齢、人種や宗教、思想で社会は分断されていくのかも。
順は逆だが、この映画のアンサーソングならぬアンサー映画なのはクリントイーストウッドの『インビクタス』だと思う。

怒りからは何も生まれない。
今作の中や一般論では、黒人が白人を嫌うのは、白人が黒人にした仕打ちがひどかったから。白人が黒人にひどい仕打ちをしたのは、黒人が暴動を起こして収集がつかなくなるから。黒人が暴動を起こしたのは、白人が……?
堂々巡りであるのならば、どこかで赦しあい、戦いにピリオドを打たなければならないのかもしれない。

しかし、許すというのは、罪を見逃すのではなく、イメージや偏見から皆が解放されるということ。
劇中のことが事実ならば、クラウスらは、罪を償うべきであったし、それがされなければ人類が滅びるまで、偏見からは解放されない。

同じ人間なんだから、という言葉では解決しえない、深く暗い社会の闇。
とりあえずは考えることを止めないようにしようと思った。
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