10円様

デトロイトの10円様のレビュー・感想・評価

デトロイト(2017年製作の映画)
3.8
不条理に次ぐ不条理。この時代を知らない我々は、この時代を語る事はできない。ましてや海の向こうの国の出来事。「酷い事するな」なんて簡単に共感はするけど、理解する事は一生できない。もし自分が白人で、50年代初頭のアメリカにいたらきっと疑問を抱かず黒人に石を投げているだろう。それほど時代の情勢は恐ろしい。黒人に石を投げる多くの白人は、本当は「善き人」なのだから。

物語の舞台は1967年のデトロイト。自動車産業が盛んなのは中学校で習うが、この都市の闇を知るのはきっと大人になってからじゃないかな?
この頃インドの綿花がアメリカにやってきてそのコスパの良さからアメリカ南部のプランテーションが次々と閉鎖。黒人達は労働を求めデトロイトに移住した。同じくして南ヨーロッパ方面からも移民がこの都市に集まり、繁栄を築く反面貧富の差が生まれ、白人は都市郊外へと移る。この貧困層と富裕層の物理的な境界線があの有名な「8mile road」である。あの映画を観た人なら、もしくはエミネムが好きなら、ビバリーヒルズコップが好きな人ならデトロイト中心の治安の悪さは想像できる。ほとんどの映画でデトロイトは犯罪の温床として描かれるほどイメージは負でしかない。実際は違うよっ!なんて言葉もありそうだけど知った事ではない、こんな暴動があった都市なのだから。それ程この映画は当時の不条理さを具現化できている…と思ってしまうほど迫真的である。
というのもやはりキャスリンビグローが表現する空間に漂う汗臭さがリアルなのだ。いつ人が死んでも不思議ではない異様な緊張感の作り方。連鎖的に起こる暴動に知らぬ間に巻き込まれている少年少女の狼狽と恐怖感。カメラは縦に揺れ横に揺れ時間を追いかけいるかのよう。これってフィクション?ドキュメンタリー?そしてウィルポールターのあの眼力。この映画が語るデトロイト暴動のアルジェモーテル事件。もうこれが真実だって断言したいほど、時代の情勢には憤慨してしまう。

この映画の登場人物であるラリーリード氏。彼を演じたアルジースミスが「Grow」という歌をデュエットしている。映画にやるせなさを感じた方。未見の方もyoutubeで聴いてもらいたい。
10円様

10円様