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グッバイ・ゴダール!のBluegeneのレビュー・感想・評価

グッバイ・ゴダール!(2017年製作の映画)
4.0
見るつもりだった映画が満席で、代わりに前知識なしに入ったのだが、意外とコミカルな話で楽しめた。主演の女優がとてもチャーミングで、「女優はフランスに限る」という私の信念が裏付けられたw

ゴダールは「勝手にしやがれ」「気狂いピエロ」など、初期の有名な作品を見たことがある程度で、商業映画を離れて政治活動に傾倒していたとは知らなかった。が、文化大革命にロマンチックな夢を託していた人々が西側諸国にいたことは知っている。フランスではフーコーとサルトルが毛沢東の農民革命を賞賛し、行き詰まったフランス社会を打破しようとするエネルギーと結びついて五月革命を引き起こす。ゴダールもまたその運動に共鳴し、文革がパリの青年たちに与えた影響を描く「中国女」という作品を完成させた。

この映画はちょうどその「中国女」が完成した時期から始まる。ゴダールはすでに押しも押されぬ大監督だったが、毛思想にかぶれてそれまでの自分の「ブルジョワ的」作品を全否定。商業映画からの脱却を決意している。

文革が毛沢東による大規模な粛清だったと明らかになった今となっては、西側の知識人がコロリと騙されたことは信じがたい。しかしスターリンのソ連がプラハの春を踏みにじったあと、彼らには毛沢東の中国に革命の夢を託すしかなかったのかも知れない。まあそもそも共産主義革命自体が巨大な幻想だったわけだが、当時のブルジョワ知識人は庶民というものに過剰な期待を持っていたのではないかと思う。

たとえばゴダールは銀行家の息子で、労働らしい労働はしたことがないだろうし、そもそも労働者をほとんど知らなかったのではないだろうか。彼は頭の中で勝手に「庶民」を思い描き、勝手に理想を押し付けていたに過ぎない。

映画では頭でっかちな「革命かぶれ」なゴダールをユーモラスに描き出す。デモに巻き込まれたりして頻繁にメガネを壊してしまうのだが、これは彼の目が見えなくなっていることの隠喩なのかもしれない。

ところでこの邦題、「グッバイ、レーニン!」とまるかぶりなんだけど、意図的なものなんだろうか…
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