きぬきぬ

あさがくるまえにのきぬきぬのレビュー・感想・評価

あさがくるまえに(2016年製作の映画)
3.8
一人の少年の死を扱っているのだけど、冒頭、恋人の部屋の窓から夜明け前に抜け出し、友だちと合流してサーフィンに向かう、そこから以降の悲劇の悲しみも関わる人々の苦しみも想いもすべてが波に漂うかのよう。
脳死した少年が心臓移植により、少年としての身体をも伴う完全な死を迎え、移植された女性の内で蘇る。その淡々とした穏やかさに逆に密かな衝撃を受けた。命、死と生、そして再生をこれほど悲しみに包まれながら、それも必要以上の悲しみの描写は排除され、それもストイックながら繊細に配慮されているようで、静かに淡々としているようでも、心を揺さぶられる。
独特の情感がとても美しく素晴らしい作品だけど、テーマが臓器移植であって、そう言ってしまってはいけない気持ちが正直あって、それでもそれは命の再生の美しさなのだろうけど、そこには一人の少年の死があったからこそで。静かにでもその痛ましさを強く感じる。

アレクサンドル・デスプラの静かな音楽も要所要所に使用される選曲も素晴らしく良いし。そして死に至る少年が生き、恋人と出逢う回想も、心臓移植を待つ重病の母でもある女性の生き様も、彼らの間を取り持つコーディネーターのドクターも。役者皆素晴らしい。
きぬきぬ

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