カツマ

あさがくるまえにのカツマのレビュー・感想・評価

あさがくるまえに(2016年製作の映画)
4.0
沈むような青色、押し寄せる波の連なり。それは生命の流転を思わせる象徴的なもの。ポロポロと手のひらの隙間から落ちていく水滴のようなピアノの音色が、抑え込むしかない悲しみを優しく包み込む。
この作品は臓器移植を題材にしたフランス映画だ。舞台のほとんどは病院という無機質な色味だが、物語を取り巻く人物たちの感情を掬い取る繊細な描写が、言葉ではなく行為と色彩で描かれている。
悲しみから始まる物語だから、ラストカットの目の輝きはこんなにも眩しく感動的だった。俊英カテル・キレヴェレ監督の感情を表情だけで魅せる描写が光る。

あさが来るその少し前、シモンは恋人のベッドを抜け出し友人とサーフィンに行くも、その帰り自動車事故に合い病院に搬送される。シモンは脳死と判定され、寝覚める見込みはほとんどない絶望的な状態だった。両親は悲しみと大きな葛藤の末に、医師から提案された臓器の提供を受け入れることにする。
一方、音楽家のクレアは心臓疾患で階段を登ることさえ出来ない病状だった。クレアは二人の息子に心配されながら死を待つだけの身のはずだったが、主治医から最後の手段として臓器移植を勧められることになり・・。

ドラン作品でお馴染みのアンヌ・ドルヴァルは激情的な母親像を封印し、今回は穏やかで朗らかな母親を見事に演じている。タハール・ラヒルを筆頭に骨太なドラマを演じるに相応しいキャストを揃えており、画面を通して緊張感が漲る作りが特徴的。
シモンを飲み込んだ津波は巡り巡ってクレアの岸辺へと辿り着き、生命のリレーを繋いでいく。これはその繋がれたバトンが朝日を浴びるまでを描いた物語だ。
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