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ポリーナ、私を踊るのchiakihayashiのレビュー・感想・評価

ポリーナ、私を踊る(2016年製作の映画)
3.8
プリマを目指すバレリーナの物語といえば、なんといってもいくつかの少女漫画が思い浮かぶのだけれど、この映画が新しいのはヒロインが文字通り自己表現する〈自己〉を自ら産み出すまでを描いた物語であることだろう。つまり、恵まれた肢体と才能で精進の末にライバルとの競争に打ち勝ち、完璧なテクニックで美しく踊るというクラシック・バレエの世界から否応なしにはみ出してしまう個性を持った少女が主人公なのだ。

ロシアの決して裕福ではない家庭環境で両親の期待を一身に背負ってバレエ学校に入学したポリーナは、厳格で知られる教師にも真向かう自我を垣間見せる小さな少女だった。やがて念願のボリショイ・バレエ団のオーディションに合格したものの、入団を前に見たコンテンポラリーダンスに激しく惹かれ、両親の反対を押し切って恋人と南フランスへ。だが、厳しいレッスンに耐え抜いてきただけでは、いや、ひたすらに耐え抜くだけだった故にか、ポリーナはカンパニーの振付家(ジュリエット・ビノシュ)に「美しいけれども何も感じられない踊りだ」と指摘されてしまう。恋人とのすれ違いに怪我も重なって、ポリーナは独り、ベルギーに新天地を求めるが、オーディションも仕事探しも上手くいかず、ついには路上で一夜を明かす羽目にも。

そんな彼女に踊りとの新たな出会いをもたらしたのは、子どもたちに自由に踊る歓びを伝えようとしているダンサーのカールだった。カールはポリーナのバレリーナとしての資質だけでなく、自らの踊りを求めてやまない秘めた情熱に共鳴し、ふたりはデュオのダンスの創作に挑戦することに−−−−。

ポリーナにはサンクトペテルブルクのマリインスキー・バレエの一員でオーディションでこの役を射止めたアナスタシア・シェフツォワ。カールを演じるパリ・オペラ座の元エトワールのジェレミー・ベランガールが、ポリーナとの間に生じる結晶作用のような関係も含めてとてもいい味を出している。ジュリエット・ビノシュはもちろん、ポリーナの最初の恋人役のニールス・シュナイダー(グザヴィエ・ドラン監督『胸騒ぎの恋人』のアドニスのような美青年! 新作『汚れたダイヤモンド』では黒髪の別人のような風貌でフィルム・ノワールの主人公を熱演)もトレーニングの成果で見事な身体能力を見せる。
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