紅蓮亭血飛沫

触手の紅蓮亭血飛沫のネタバレレビュー・内容・結末

触手(2016年製作の映画)
2.8

このレビューはネタバレを含みます

触手、とストレートな邦題に釣られて鑑賞。
成年向け漫画以外で触手と性行為をする映画は初めて見ましたが、中々にエロチック。
もっとこういう映画増えて欲しい・・・。

ストーリーは既に書かれているため省きますが、単刀直入に言うと本作が描きたかったものは“快楽”です。
それこそ人間に限らず、命ある生き物は誰も彼もが快楽を追い求めるもの。
美味しい物を食べたい食欲であったり、欲しい物を手に入れたい・手に入った時の高揚感であったり、性行為から得られるオーガズムであったり。
生きる事は快楽を得る事といっても良いぐらい、生き物にとって快楽とは、根本的な生命活動の指針となるもの。

そこで本作に登場するクリーチャー・触手が一枚噛んできます。
この触手はある小屋に潜んでおり、小屋に入った人間を持ち前の何本もある触手を駆使し、とてつもない快楽を与える事が出来るのです。
それは正に触手と人間が性行為を行っているかのような描写で、主人公・アレハンドラは日々の苦労から開放されたかのような絶好調な姿を見せる。

ただでさえ気苦労の耐えないこの現代社会で、誰かの手を煩わせるわけでもなく、触手が最高の快楽をお膳立てしてくれるわけですから、「この触手最高じゃん!」と思い立ってしまいますよね。
ですが勿論、そう簡単で都合のいい話なわけがありません。
この触手によって膨大な快楽を得るアレハンドラがいる一方で、アレハンドラの夫・アンヘルと性的関係を持っていた弟・ファビアンもまた、触手による快楽に溺れていました。
そんな彼が、ある日突然死体となって転がっていたのです。
終盤、アレハンドラは負傷したアンヘルを小屋へと運び、触手に彼を触れさせます。
結果、アンヘルは死亡し、山積みとなっている死体遺棄場所に放り投げられました。

触手による快楽を前に、体が耐え切れなかったのか死亡したアンヘルとファビアン。
アレハンドラはその快楽を持って悠々とした生活を送っていましたが、おそらく触手による暴力で死んでしまったヴェロニカという人物もいます。
この違いは何なのか・・・と物思いに耽ります。
触手自身が単なる気まぐれで、行為に熱が入ったため暴力に及んだのか(アンヘルとファビアンの殺害だけでなく、冒頭でヴェロニカが脇腹を負傷したり、老夫婦の女性も骨を折られたらしいですし)、もしくはアレハンドラがそれ相応の扱いを受ける権利(募るに募った日常面のストレスが膨大で、触手にとっても快楽を与える人材としてうってつけの逸材だった等)を持ち合わせていたのか・・・。

思い返せば本作は、アレハンドラ以外の人物のほとんどが“快楽”を日々の生活を通して謳歌していました。
アンヘルとファビアンは肉体関係がありましたし、ファビアンはヴェロニカと恋人関係を持ちたい気持ちが芽生えたり(触手の誘惑に抗えず結局別れてしまいましたが)、ヴェロニカはかなり前から触手がもたらす快楽に身を委ねていたのが窺えます。
アレハンドラ以外のメイン人物が、日々の生活でそれなりの快楽を得ていたというのに、アレハンドラは毎日靄がかかったような生活を送っていたわけです。
だからこそ、触手がもたらす絶大な快楽に適応出来たのかもしれません。

何事も程々がいい、中立なバランスを・・・とよく耳にするものですが、その言葉を裏付けるがごとく、本作は“圧倒的な快楽”を通して壊れていく人間関係、命が際立った作品でした。
例えばアルコール依存症であったり、ドラッグによる中毒症状であったり、節度・用法用量を守らない度が過ぎる快楽は身を滅ぼす・・・という戒律を“触手”という異形の生命体を通して描いたアイディアは面白かったですね。
ジャケットやタイトルに釣られ、触手モノのR-18指定映画と思って期待した方は残念に感じるかもしれませんが(触手の出番自体は全編合わせても数分程度なので)、姿を見せずとも暗躍している事が肌で感じられるその存在感、アレハンドラの体を嘗め回すかのごとく這い寄ってくる様など、楽しめる点はしっかりとあったので私は許容内でした。
全編に渡って物静かで少々ダークな映画ですが、そこに触手を携えたモンスターが一石投じてくる、その劇薬っぷりが気に入りました。
こういう映画もいいものです・・・。