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マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)のtjZeroのレビュー・感想・評価

4.0
『フランシス・ハ』、『マリッジ・ストーリー』、『イカとクジラ』のノア・バームバック脚本・監督作品。

ま~まず、この一家の顔ぶれ(キャスト)が魅力的。

ハロルド(父)…ダスティン・ホフマン
モリーン(継母)…エマ・トンプソン
ジーン(長女)…エリザベス・マーヴェル
ダニー(長男)…アダム・サンドラー
マシュー(次男)…ベン・スティラー

サンドラーとスティラーが兄弟役ってのは一瞬「えっ⁈」って違和感があるけど、ホフマン演じる父のハロルドがバツ3で、ダニー(サンドラー)とマシュー(スティラー)は異母兄弟という設定で納得。

父ハロルドの入院をきっかけに、バラバラだった一家が集まり、久方ぶりに交流する…というお話。

経済的には成功したけど父の期待には応えられなかった、とか、今は関係が良好だけど子どもの頃は父の離婚のゴタゴタで充分な愛情を得られなかった、などなど、それぞれがいろんな鬱屈を抱えて育ってきて、本音をぶつけ合う。

バームバック作は、そのセリフのぶつかり合いが面白い。
作られたダイアローグではなく、その役者の深い部分から発せられる肉声のように感じられる。
リアルな”本音”と自然な演技を武器とした真剣勝負。
グラディエーター同士の剣戟を観ているような、スリリングなセリフのぶつかり合い。

なので、その勝負がホントのケンカに発展する瞬間が特に見もの。
『マリッジ・ストーリー』の別れる寸前の夫婦同士のバトルも面白かったけど、本作のサンドラーとスティラーの兄弟ゲンカも火花バチバチ。
役柄としての葛藤に加え、厳しいショービズ界を生き抜いてきた名コメディアン同士のライバル心というか、意地と意地のぶつかり合いみたいなものまで感じさせて迫力満点。
ケンカの前に、両者が一瞬わかり合えてホロッとしかかったところで、ちょっとしたきっかけでバーストしてしまう…という演出の呼吸もすばらしい。

演出の巧みさは全編に及んでいて、まずは真に迫ったセリフの洪水で観客を一家のドラマにグイッと引きこむ。その間、BGMとして静かに🎹音が流れている。
そして、重要なシーンになるとセリフのテンポが落ち、一語一語がドスンと重みを帯びて響き、しかもいつの間にか🎹音が止まっていて、よりその発語のインパクトが高まり、胸の奥にストレートに入ってくる。

そんな動と静の呼吸が全編にわたってスムーズに流れており、作品全体が一曲の音楽のよう。観ていて心地いい。


《付記》マーティン・スコセッシ監督作も会話の面白さが肝だけど、スコセッシ作の場合は俳優同士のやりとりが、舞台上の演劇人同士の演技合戦とか、リング上のボクサー同士の殴り合いみたいな、特別な興行を観ているようなプライム感がある。
それに比べ、バームバック作の会話シーンはもっと身近な感じ。格闘に例えるなら、街中のストリート・ファイトを見ているような生々しさがある。
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