Ren

シェイプ・オブ・ウォーターのRenのレビュー・感想・評価

4.0
本来形の無い水を愛の比喩とした「水の形」のラブストーリー、初デルトロ作品だったけどが、この美しさと怖さは完全に自分好みだった。

兎にも角にも美術が凄い。これだけで鑑賞の甲斐がある。青を基調にしたライティングとセット、しつこいほどの水水水。そして半魚人・アセットのキャラデザが至高、恋愛対象の王子としての魅力もあれば、迫害されるモンスターとしての説得力もある奇跡的なバランス。このおかげで物語の説得力が数ランク増している。

実験体のアセットを「人間」と捉え、彼を逃すべきだと考えた人達による、潜入→救出→脱出 の一連のシークエンスは、純粋にそういうジャンルものとしても楽しめた。救出に携わるのが障がい者・同性愛者・黒人女性といった所謂マイノリティである一方、迫害派は悉く権力側の人間と、分断がはっきり起こっているのも分かりやすい。冷戦下における(現代にも通ずる)社会構造の縮図になっている。
ストリックランドは、おそらくはトランプ的なアメリカの権力者の具象。自己啓発本を読みながら威張り散らかしている描写が痛烈で最高だった。

映画の中でモンスターが辿る顛末といえば、人間のエゴに殺されるかまたは人間に姿を変えるものが多数派であった中で、「モンスターがモンスターのまま最後まで愛を実らせる」珍しい作品。『美女と野獣』へのアンチテーゼとしても、マイノリティ映画の中の異質作としても燦然と輝く傑作であることは間違いないだろう。

「悪役が悪役のまま退場する」辺りも極端なまでに書き割り的でおとぎ話的。地に足着いた現実パートとは打って変わって耽美な水中のシーンが、「2人の愛」がこれ以上無い形で強調された幻想的な映像でまさに物語的だった。現代のおとぎ話として意味ある一作となっている。



《⚠️以下、ネタバレ有り⚠️》










権力者に追われるかもしない、そんな世の中に作り出したひとときの愛は、浴室に水を溜めた美しくも狭い空間で交わされる。ストリックランドの喉元を掻き切り(イライザの境遇と重なる辺りが彼にとってなんとも皮肉)、真の意味での2人だけの愛は、海=広がりを持った空間で表現される。タイトルの通り、水の形が愛の形を表している演出が見事だった。

アマゾンで神とされていたアセット。彼とイライザはラストで本当に神的な存在に見える。ジャイルズの「2人が共に幸せに暮らしていることを信じている」という発言が文字通りそのままの意味であることを、自分も信じたい。

冒頭とラストの独白で語られるジャイルズの「真実と愛と喪失の物語について。そしてすべてを破壊しようとしたモンスターについて」という言葉。
モンスター=ストリックランドを始めとする権力者。
喪失=イライザとアセットが、ジャイルズの前から姿を消したこと(真実の愛で結ばれた2人がこの社会ではなく2人だけの世界に生きると決めたこと)。
と解釈した。
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