ひさかた

シェイプ・オブ・ウォーターのひさかたのレビュー・感想・評価

5.0
不変的な愛。

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政府が管轄するラボの、夜間清掃員として働くイライザ。幼少期から声帯に問題を抱え、手話でしか会話ができない。
そんな中、ラボの一室で水槽の中に入れられた「怪物」を見かける。なぜだか妙に惹かれたイライザは、その日以降ラボにこっそりと入っては怪物と交流をし続けていく。ゆで卵をあげてみたり、一緒にレコードを聴いてみたりするうちに、彼と心を通わせていく。
しかし、彼を処分しようという動きがラボの中にあると知り、彼女はある決断をする…。

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デル・トロの中にある愛の形を作品まるまる使って描いちゃった、超贅沢な作品です。

この映画には、いろいろな人たちが出てきます。どちらかと言うと、社会の中で疎外されてきた人々です。白人社会の中の黒人、障がいを持つ人、同性愛者、出身国による差別など様々です。
ただ、そう思ってしまうこと自体がおかしいとこの映画は優しく語ります。そう思うことこそが、差別そのものなのです。
物語の中で、イライザが「彼」に惹かれる理由として『ありのままの私を見てくれた』と答えます。「ハンディキャップのあるかわいそうなイライザ」ではなく、声が出ないことをそもそもハンディキャップとも思わない「彼」だからこそ、自分の本当の姿を見てくれたのだとイライザは訴えるのです。

デル・トロは、見た目や身体機能の違いなどを意識しないもっと深いところの愛を、この映画で存分に見せてくれます。
あなたを理解したい、という最大限の愛の表現方法。呼吸、まばたき、考えていること、好きなもの、食事、あなたのことだったら何だって知りたい。たくさん知って、理解したい。きっと、そういう愛の美しさを描きたかったんだろうと思っています。
デル・トロにとってその対象は「怪物」だったというだけ。より大衆に理解してもらいやすい形で、自身の愛を表現する手法として「美女と野獣」のような寓話的な構成を取ったのでしょう。

本当はもっと美術への関心の深さとか画面外の世界観構築への意識、カメラワークなど語らなければならない項目も多いのですが、それはあと2回くらい観てからやっと語れる気がします…

なんと美しい作品なのか。
あなたを知りたいという愛の美しさを語る映画なんて、わたしは過去に知りません。それを語れる監督がいる、それだけでわたしは安心して眠ることができるのです。
ひさかた

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