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シェイプ・オブ・ウォーターのmのレビュー・感想・評価

5.0
東京国際映画祭にて鑑賞。

完璧な大傑作!
喋る事ができない女性と、半魚人との官能的で美しい愛の御伽噺。そして素晴らしい女性映画。ギレルモ・デル・トロ監督、最高傑作にして映画史に残る名作を作り上げた。

最高、素晴らしい、以外にもうこれ以上言葉を書き連ねたくないくらいの気持ちだけど、幾つか書いておきたい事もあったので書き記しておく。


主人公と彼女に味方してくれる人々は皆マイノリティだ。主人公は前記の通り障碍を持っている。時代設定が冷戦下故に黒人差別もまだ露骨なので、主人公の親友のオクタヴィア・スペンサーもマイノリティの立場にある(彼女は家庭では家父長制にさらされてもいる)。そもそも彼女達の仕事は夜勤の掃除婦で、その仕事による差別を受ける場面もある。
リチャード・ジェンキンス扮する気の良い隣人もマイノリティである(詳しくは本編で)。マイケル・スタールバーグ扮する博士も様々なしがらみの板挟みにあう男だ。
そんな日陰者の彼女達が同じくマイノリティである半魚人に感応し愛・共感を寄せて、力を合わせて助ける姿は清々しく、感動的。
冷戦時代という時代設定は、現代が偏狭で排他的な時代に再び戻りつつある事を意識して設定されていると思う。そんな今だからこそ、この時代にマイノリティが心を通わせ合い活躍する物語には大きな価値がある。

主人公達を追い詰めるマジョリティの代表として登場する『悪役』のマイケル・シャノンですら、私生活が細やかに描かれ(彼の性生活まで描かれる)一人の人間として描かれるのが素晴らしい。彼が世間が定義する『成功した男』の基準に縛られ苦しんでいる事まで垣間見える。

シャノンを筆頭に、親友も博士も隣人も、そしてもちろん主人公も、登場人物一人一人の描き込みが細やかで、誰もが分かりやすいキャラクターではなく複雑な人間として映画の中で屹立している。それがこの御伽噺に深みを与えている。登場人物達ほぼ全員に監督の博愛が注がれているのだ(故に役者も全員輝く)。


序盤で主人公が自慰をするのが日常的な事としてさらりと何度も描かれるように(女性の自慰行為が扇情的ではなくあくまで主体的に描かれている作品は良い)、この映画では『性』がしっかりと描かれているのがまた素晴らしい。
若くもないし秀でて美しい訳ではないが、不思議と魅力的で人を惹きつける主人公、サリー・ホーキンス。「美女と野獣」(若くて美しい『美女』というステレオタイプ)の偽善的な側面や障碍を持つ人物=けなげで清らかという世間のステレオタイプを彼女は軽やかに飛び越える。隣人と楽しげにタップを踏み、毎日オナニーをして、恋に心躍らせ法律を犯し、手話で「FUCK YOU」を突きつけ、そして前人未踏の愛に踏み込んでいく。序盤から彼女はとんでもなくチャーミングだが、物語が進むにつれてサリーの表情に絶対的な強さと美しさが宿っていく。
表情と身振り手振りだけで見事に感情を表現し、この人でしか出せない独自の魅力を発揮するサリー・ホーキンスは本作にとって最高の主演女優だった。

主人公の日常の繰り返しのささやかな豊かさが描かれる序盤のシークエンス、そして主人公と半魚人の彼との言葉を用いない交流の美しさ、と台詞に頼らない映像による表現の的確な流麗さが見事。そして後半のあるシーンでの彼女の感情表現に完全に心奪われて涙した。

躍動的で美しい映像も見事で、冒頭のファンタジックなショットから心掴まれる。音楽の暖かみもたまらない。


R18版は東京国際映画祭のみだそうで、劇場公開時はきっとボカシありの醜悪なR15版になってしまうのが残念極まりない。
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