Yoko

シェイプ・オブ・ウォーターのYokoのレビュー・感想・評価

4.7
老齢の孤独な友人を持つ女性”イライザ”。
掃除係として勤務している研究施設に「謎の生物」が運び込まれ…。


傑作。
物語が面白く感動的であるという娯楽性に加えて、この映画は押しつけがましい教訓という形ではなく、観ていてふと何かを気付かせてくれるタイプの傑作。
主人公”イライザ”と”彼(「半魚人」と呼ぶにはちょっと畏れ多い!)”の恋愛模様は決して「特殊」なのではなく、真っ当で「普通」だった。

(以下、核心の内容はできる限り避けてるつもりですが、鑑賞前にはあまり読まない方がいいかもしれません…。)


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主人公含め周囲の人物はマイノリティ(少数)として分類されるであろう人々が多く(あのお国の人がここまで活躍するのは本当に意外)、その枠組みにおける恋愛ということで「普通とは違う恋愛」で面白かったという感想を持つ人もいるやもしれない。
しかし、自分は「普通」だとか「まとも」だと”思い込んでいる”私たち(無論皆それぞれどこかズレているのは当たり前だ)の目線から見ても、とても共感出来る、別にそんなヘンテコな話でもなくましてや人智を超えたものでもない。
たしかに、話すことが出来ない人は出来る人に比べ少数であることはわざわざデータを持ち出すまでもなく、実感として明らかだろう。
でも、マイノリティだからと言って、マジョリティとは異なる「特殊」な存在であるなんて言えるだろうか?
見た目や特徴は違えど、愛情の形はまったくもって同じだ。

だからこそ、「まとも」であることに必死な”あいつ”が「まとも」な人間の象徴”五本指”に固執したり、「まとも」の頂点ともいえよう「勝ち組」の象徴”ティールのアレ”を購入したりすることで、「差異」を認めることが出来ない人間として描かれる様を見ているのも辛く本当に哀れだ。
というのも、私たちの心の内に潜む(潜んでない人がいるのならそれは幸せなことだろう)「まともであることの強迫観念」に苦しむ人そのものであり、ここにも共感を覚えてしまうのだ。
しかし、彼もその差異を認めたいという深層心理を抱えている。
なんせ”ティール”は、主人公一派の大事なテーマカラー(水もそうだ)なのだから。

俯瞰してみると、やっぱり前年公開の『ムーンライト』と似ているように思える。
ただ、あの作品で気づけなかった点が、今作のおかげでいろいろと見つけられたような気がする。
何より今作は気付かせる力を持つ「中身」のある作品というだけでなく、感動的で面白い娯楽要素も含んでいることが魅力だった。
まるで「映画のセット」のような街並みの雰囲気なんかもうたまらないし、物悲しく抒情的なモダンジャズ(それともオールドジャズ?あまり聞き分けがつかない…)を中心に盛り込んだBGMの数々。
CMでわずかに流れた『La Javanaise』がこの世界観と一番マッチングしてて良いなぁ。
個人的に予告編が素晴らしい作品の本編は拍子抜けで物足りないことが多かったけども、このジンクスを破ってくれた。

ビグロー監督『デトロイト』がノミネートすらされてないアカデミー賞。
作品賞が気になっていながらも正直どうなんだい?と思っていましたが、メッセージも娯楽性も兼ね備えた今作の登場のおかげで吹っ切れました。
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