Masato

シェイプ・オブ・ウォーターのMasatoのレビュー・感想・評価

5.0

追記
アカデミー賞作品賞、監督賞、作曲賞、美術賞おめでとう!!!


おそらく今年のベスト10には入るであろう作品

半魚人と声帯がない女性の純愛ファンタジー。これが純愛。これぞ純愛。日本のクソッたれた恋愛映画なんかよりも、数億倍愛を感じられる。

60年代あたりのクラシックな世界観とデザインの数々、半魚人の怪獣的デザインなどの芸術的な観点からみても素晴らしく、恋愛要素も素晴らしく、スリリングな展開も素晴らしく、社会風刺も素晴らしく…個人的には完ぺきとしか言いようがない面白さと奥深さ。


ギレルモデルトロ監督は私と同類のオタクでマジメなので、この映画の背景をまじめに伝えている。それを基に感想を書く。

まず、デルトロ監督は「美女と野獣」の、本質は外見ではないというのに、結局はハンサムな王子に戻ってしまう。そんな展開に異を唱えている。
最近の実写ではエマワトソンとダンスティーブンスの美しいコンビが出演していたが、野獣が全く醜くなく、ただえさえ原作がおかしいのに、さらにテーマ性の説得力が欠けていた。商業主義の塊のような映画でガッカリした。
それに対して、この映画は40代の声帯のない女性と醜い半魚人が主人公である。そういった商業主義に対抗する芸術主義の姿勢に感服した。それだけでなく、社会的な要素も含まれていて、どちらも「弱者」であるということも、また素晴らしい。

次に、監督はトランプ大統領の「グレードアゲイン」は62年以前のアメリカを意味していると言う。
まさに、この映画は、女性の不平等な権利=男尊女卑の社会構造、人種差別、性的嗜好の差別、冷戦等による問題(ベト戦、朝鮮戦争)などなど、まだいろんな問題が横行していた時代だ。
今のトランプ政権下は、有色人種の排斥意識の増強や、女性に対する蔑視発言、攻撃的な思想、移民排斥問題、いままで徐々に改善されている問題を台無しにしようとしている。まあトランプは完全なポピュリズムなので、大衆の意識を根本から変えなければ無理な話ではあるが、監督が言うことは尤もであり、こうしたファンタジーを通して訴えることは説教くさくなく、非常に上手な形で伝えていると思う。

上記に挙げられた「差別」の問題が、主人公たちに降りかかってくる。つまるところ、アメリカは社会的弱者(マイノリティ)が生きづらい世の中になってきている。主人公が声を出せない設定は、自らの意見が世間に行き届かずにマジョリティに押し潰されていくことのメタファーになっている。そして、半魚人は異人種のメタファーだろう。対して、マイケルシャノン扮するストリックランドはマイノリティを潰そうとするマジョリティ、即ちトランプ大統領だ。
そんな叫んでも届かない、自分の居場所がない社会的弱者が、常にひとりぼっちだった半魚人に恋をする。これこそ、私たちが共存社会を生きていく上で痛感する苦しみ。「弱者・孤独」。そんな問題を言語など必要とせずに乗り越えようとする姿は、もはや愛を超越した何かを感じる。監督自身も、メキシコ人ながら肌が白くてオタクで孤独だったそう。そんな彼が体験した孤独のリアリティが半魚人に滲み出ていた。セリフなどどこにもないのに、佇まいでわかる。
主人公と半魚人の愛は単なる愛に片付けられない、様々な問題を孕んでいる。だからこそ、この愛の逃避行はより一層奥深い。

結論、この映画の主たるメッセージは、外見など関係なく、互いの苦しみを分かち合い、乗り越え、愛し合うことこそが本質である。ということだ。「美女と野獣」よりよっぽど説得力のあるテーマ性の強さだ。

長々と書いてしまったが、わたしがこの映画にかける想いは伝わっただろうか。

物語以外のところでいうと、ダンサーインザダークのような日常の中における非日常感が混在してくる奇妙さと素晴らしさ、「Bioshock」、「Fallout」のような60年代の映画の中にいるような世界観。
計画性のあるスリリングな展開と追うものと追われるものの冒険性のエンターテインメント。非常に良かった。

なんといっても、キャスティングも素晴らしい。サリーホーキンスはセリフ言えないなかで、身体で感情を表現しなければならない役を見事な演技でやり遂げた。身体的ハンデがある役はオスカーをとりやすいので、もしかしたらフランセスマクドーマンド一強を覆すかもしれない。4
いつも金剛力士像みたいな顔のマイケルシャノンは、いつもより増して怖い。ゾット将軍以上にしかめてる。
あとは、オクタビアスペンサーとマイケルスタールバーグの名バイプレイヤー。
賞賛したいのは半魚人役のダグジョーンズと半魚人をデザインした人。

ここまでの怪獣映画を作ってくれたギレルモデルトロ監督に拍手。これからも応援します。


客観的評価 50点
主観的評価 50点
100点

追記(レビューと重複する内容)
半魚人の悲しい佇まい。世間から目の敵にされ生きてきた生物。まさに、彼は居場所がどこにもない。移民のメタファー。そして、普通の生活に馴染めなかったオタクたちのメタファー。
彼が好きだ。それは、私と一緒だから。
Masato

Masato