カツマ

シェイプ・オブ・ウォーターのカツマのレビュー・感想・評価

4.5
あまりにロマンチックなラストカット。エンドロールで目を閉じて少し微笑んでいる自分がいた。
琥珀色の海に沈みゆく赤い靴。いっぱいの青色は緑がかった光と共に、抱きしめ合う2人を包んでいく。この映画はロマンチックを裸体にして、剥き出しの愛の形を提示する、本当の意味での、美女と野獣、だった。映画『美女と野獣』が好きではないと言い切るデルトロ監督は、優しくロマンチックな人間なのだろう。世の中美男美女ばかりじゃない。半魚人と喋れない女性のラブストーリーがあったっていい。お伽話のようなファンタジーなのに、その愛はどこまでも普遍的なものだった。

舞台は冷戦時代のアメリカ。政府の研究機関で清掃婦として働くイライザは、幼い頃の傷がもとで声を失うも、絵描きのジャイルズと仲の良い二人暮らし。加えて同僚のゼルダの放つマシンガントークを聞くのも仕事中の日課だ。そんな日常は質素だが、穏やかだった。
そんないつも通りの日常の中、研究機関にある実験生物が搬送されてくる。警護責任者のストリックランドの指を食いちぎったその生物は、アマゾンの秘境で祀られていた半魚人だった。イライザは清掃中に半魚人と出会ったことにより、彼のことを気にかけるようになっていく。

この映画は綺麗なだけの物語ではない。デルトロ監督は決して綺麗事を描かず、真実を晒してみせたうえで、その傷跡の中にある本当に光るものを映像化する。それ故に生々しい描写は多く、美しいだけではない。そこに少しの恐怖を植え付けることで、この映画に真の意味での痛みを付加していた。
半魚人にとって、イライザの声が無いことなど関係ないことだった。そしてイライザにとっても、彼が人間ならざるものであることなど、関係なかったのだ。そこに剥き出しの愛が生まれ、物語は美しいラストシーンを用意する。あの空のような青色の中で、悲しみと痛みのその先にある、2人だけの愛の形は果てしなくロマンチックだと思わずにはいられなかった。
カツマ

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