グラッデン

シェイプ・オブ・ウォーターのグラッデンのレビュー・感想・評価

4.6
美しき怪物が生み出した、愛おしい物語。

鑑賞後、様々な感情が込み上げてきて、胸がいっぱいになりました。不思議な半魚人と声を失った女性・イライザの交流は「恋愛」に変化し、物語の進行に伴い、切なさが込み上げる「深愛」になっていたと思います。
公開前のフライヤー等に掲載されていたジェームス・シーン氏のイラストが非常にインパクトを感じていたのですが、両者の深い結びつきを描いた素晴らしいビジュアルだと鑑賞後に改めて実感しました。

本作の主要人物である、声を出して自分の感情を伝えることが出来ないイライザ、ゲイであることを隠しながら暮らす隣人の画家・ジャイルズ、神経質なまでに「強い男」であることにこだわるストリックランドに共通する点は「自分の存在を理解してほしい」という感情を秘めている物語だと思います。
本作における神秘的な半魚人の存在は、イライザは何故怪物に心を惹かれたのか、ストリックランドは怪物にどのような接し方をしたのか、を考えると、彼女たちの内面を映し出す鏡のような存在になっていたのではないかと。

また、登場人物たちが感じる「息苦しさ」を表現するために1960年代のアメリカを舞台に設定したと思われますが、半世紀経過した現代にも通じる部分が多くあると思いました。丁度、先日鑑賞した『デトロイト』しかり、本作に出演したオクタビア・スペンサーの好演も記憶に新しい『ドリーム』がそうであったように、マイノリティに対する根強い差別が当時とは異なるかたちで広がってしまっている現代に照らし合わせることができます。日本であれば『シン・ゴジラ』のゴジラがそうであり、韓国であれば『新感染 ファイナルエキスプレス』がそうであったように、本作における半魚人は社会を映し出す鏡にもなっていたのかもしれません。

この他、作品の世界観に引き込まれていく、音楽のチョイス、各シーンにおける多彩なカメラワーク、時代設定に合わせた細かなディティールまで、作り手のこだわりを感じる作り込みも大変素晴らしかったです。

心と頭を整理して、もう一度会いに行きたいと思える、様々な意味で自分の心に「刺さる」作品でした。こんな時代だからこそ。