Lz

シェイプ・オブ・ウォーターのLzのレビュー・感想・評価

4.4
“混沌の時代に贈るおとぎ話”

愛に溢れ、運命に愛された映画。
異種間だからこそ絶えず、果てなく生み出される愛が、芸術的且つ大胆に描かれていた。
社会風刺を難なく織り交ぜ、自身の愛情に忠実な彼らを、切実に、丁寧に、そして少し残酷に、表現していた。

デル・トロ監督の言葉をお借りします。
『水のように決まった形などなく、しなやかで、緩やかで、柔軟性に富むのが”愛”だ。』
彼のこういった思想のもと、イライザの勇敢で素直で力強い愛が生み出された。確かに彼らの愛の形は何にもはまらず、するりと手からこぼれ落ちて自由に流れていくよう。しかし生身の人間はもがき、息も絶え絶えするもどかしい思いを抱えることになる。
お風呂場で浸かるシーンは、映画史の中でも特に印象に残る、好きな場面。現実空間の場で、空想的に愛を確かめ合う。イライザの熱く逸る心情が象徴されたシーンだった。

良かったのが、フィッシュマンが意思疎通は可能なものの、言葉を発したりせず人間ほどの知能を持っていないこと。
ここでフィッシュマンが饒舌に喋ることが出来たなら、既存の概念に囚われた愛結末でしか物語を完成させることが出来なかったと思う。
けれどデル・トロ監督は、あくまでも異種であるということを念頭に置き、その想像も出来ないような愛を表現した。人間だからこそ出来ることを尽くし、人間でないからこそ可能なことを、思いのままに、ひたむきに、身も切れるほどに溢れさせていた彼らの姿に一種の心地良さを感じた。

この物語が切なく感じないのは、きっと二人の絆にヒビが入らなかったから。結ばれるチャンスがあるならば逃さず、追い求め、彼も愛されるがまま。彼が喋ってイライザのために別れを切り出そうものなら、一気に興醒めというもの…
イライザが喋れないというのに共通させたのもあるだろうけど、そこで異種間の差異を表現したのだと思う。人間に近いが、人間ではない。そこが重要なのだと。

イライザの眼差しや、衝動的に動く手話が強く視覚に響きました。ああ、彼女は本気なのだと、観ているこちら側が彼女に感情移入をする一面となっていた。幸せそうに彼の話をするイライザ。そんな彼女が羨ましくもなった。

結末は、きっと誰もが望んでいながら、こるまで達成されてこなかったもの。こんなにも美しく忠実な愛が完成されることはあっただろうか。果てしなく揺蕩い、身体中に染み渡るものは冷たさから温かさに変わる。フィッシュマン、彼がイライザの愛を受け止め、自身の愛も彼女に受け渡したことにより完成した結末。彼らにはわかっていたのだと思う、何が幸せか、愛する人の気持ちが、どういった形をして、何がそれを満たすのか。

イライザに新たな愛の形が与えられた時、鳥肌が立つほど神秘的に感じた。水の中、その色合いや光加減は、映画館の中さえも異空間にさせてくれる美しさだった。映画館で観るべき作品。
Lz

Lz