伏暗

シェイプ・オブ・ウォーターの伏暗のレビュー・感想・評価

3.8
感想が難しい。良い。すごく良いけども、物語ではなくて映画の技術に泣かされたという妙な感じ。よくよく考えたり、分析したくない映画。何を言っても野暮になりそうであまり考えたくない。適当にパンズラビリンスの筆致とか言うのは簡単だが、それだけではないので単にデルトロの映画と言ったほうが的を射ている気がする。とても隠し味の多いレストラン。色んな料理の手法が取り混ぜられているような。

ロマンスとサスペンスが奇妙に混在していて、テーマさえも浮遊感がある。シークエンス単位で作られた御伽噺の断片たちが、役者と音楽、だけによってひとつに、されどゆるやかに繋ぎとめられている。全体の、一連の映画としての統一、作者の見えざる手はほぼないが、そのためにウェルメイドさが抑えられているような気もする。良いか悪いかは知らない。ムラはあると思うが、まぁいくつかの最高の画を撮ったというだけで評価されても良いとは思う。

肝心の表現、というか、主張……これはあんまり踏み込んでもよくない気がする。踏み込む必要があるのかもよく分からない。孤独な人間たちを再確認する話で、ありのまま云々はよく分からない。ありのままに私を見る、ということは劇中で描かれたような話なのかなぁ。微妙。ただ、御伽噺のような愛のかたちは、空き缶のように転がっていそうで、現実にはまったく見当たらないということ。そういうものを描くというのは、しかもそれが成功しているとなれば、まぁ美しいのは間違いないのかな。

孤独な人たちの、歯車を合わせるような連帯。セックスとはなんだ。性交渉は愛そのものなのか。肌を重ね合わせるというのはそんなにも特別なことなのか。そう、特別なことなのだ。そんな感じがする。そしてそれでいて、セックスは愛おしさの随伴物なのよね。うーん。なにか、まだ分析も解体もされていないロマンスの神話のかたまりをどちゃんこって見せられた気分。や、だがそれがいい、ってやつでしょうか。
伏暗

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