チョマサ

シェイプ・オブ・ウォーターのチョマサのレビュー・感想・評価

5.0
涙があふれてきた。こんな風に自然に涙が出てきたことは無かったから、思った以上に感動したんだと思う。

物語が美しいのもあるけど、構成と演出が完璧だったのに感激したんだと思う。イライザの首の傷がクライマックスであんな風に機能するとは思わなかった。単に『人魚姫』を人物造形の元だけじゃなく、物語にも生かしているのに、とても驚いた。劇中でストリックランドが話す『サムソンとデリラ』の物語も伏線になるけど、それが機能する時のゼルダへの配慮も考えられているし、ユーモアもある。映画全体が緻密に組まれてる。

いちばん惹かれたのが、主な登場人物が当時の主流から外れた人間として描かれてるところだった。話せないイライザ、アマゾンの半漁人、ゲイのジャイルズ、黒人のゼルダ、ホフステトラー博士。
スリックランドもそうだった。彼は政府側の人間でこの映画の悪役だが、ホイト元帥とのやりとりで彼の背景が見えると変わって見えた。
軍人で朝鮮戦争にも行って、その頃から元帥の下で出世を狙っていた男。ティール/緑色のキャデラックを買って、郊外に家を買って、時代に合わせて理想的な人間になろうとする。それも失敗して必死になって犯人を捜す。
ドゥミニクと対峙する場面で、彼の本音が出てくる。
「最近のお菓子はヌガーとか入ってるが、俺は昔からこれなんだ。このキャンディーじゃなきゃダメなんだ」
ポジティブ・シンキングの本を読んで、家族と過ごしてるときも将来の不安を感じてる。時代に取り残されるのを怖がってる男も、イライザたちと同じに思えた。

1962年は、監督がインタビューで語ってる現在のアメリカを描くための舞台でもあるけど、TVに映し出される昔のスターや客の少ない映画館みたいに時代に忘れ去られてるものを描くのにも、未来と過去の過渡期を描くのにもいい年だったのかもしれない。

こうして書くと、取り残された人や辛そうなおっさんとか、好み度ストライクのものが描かれるのも、この映画が好きになった理由なんだろうな。
チョマサ

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