ryosuke

シェイプ・オブ・ウォーターのryosukeのレビュー・感想・評価

4.7
数々の構成要素が見事に絡み合った無駄のない作品。これがデルトロのオリジナル脚本か...
モンスターの造形は「パンズ・ラビリンス」の方が好みだったが、全体的な完成度の高さは圧倒的にこっち。
青、緑系統に統一された色彩の画も綺麗。
個人的には、せわしなく動いているカメラワークよりも固定ショット多めの撮影が好きなのだが、本作のカメラワークは流麗で(それこそ水の流れのようで)良かった。会話シーンの切り返しまでカメラを若干動かすのは良く分からないが。
同性愛者、障害者、黒人の六十年代における状況と、彼らが被抑圧者として支えあっている様、それゆえの異形のものへの共感が良く描かれている。
冷戦期の世相も絡められており、争いの時代の中に(「パンズ・ラビリンス」ではスペイン内戦)異質なもの達の相互理解の様子を配置することで効果的に見せている。
安易にプラトニックな愛にしないのも良い。性器中心主義的なものになっていたことには若干の限界を感じたが。まあ映画は時代に対してちょっと進歩的な倫理規範を提示するのが丁度いいのだろう。「中華料理屋で魚を助けるのか」というセリフは、いずれピーター・シンガー流の種差別批判、動物の権利論が優勢になれば(意図せずとも)本作を含む現代文化へのクリティカルな批判となっていくかもしれないなどとも思った。
ファンタジーでありながら、血液、性描写、ゆで卵等々の配置により「生」感が強くなっている。
主演のサリー・ホーキンスは一般受けする美人という訳ではないが、喪失を抱えた主人公を見事に演じ、魅力的であった。
マイケル・シャノンも悪役を熱演。残酷、傲慢、差別的(で、自己啓発本なんか読んじゃってる)な人物造形を見事に表現していた。彼はとにかく最悪なのだが、標準的な成功の枠組みへの強迫観念、プレッシャーに押しつぶされてしまった被害者なのだなとも思わせられ、彼にも同情する余地を残している。指をちぎりながら迫るシーンは圧巻。彼はラストに死んだわけではないのだろう。傷は神であるところの半魚人に授けられた試練であると理解した。
娯楽映画の範疇でありながら、映像表現も凝っている。水滴を操るシーンや、白黒のミュージカル調の演出が挟まれるシーン(片方は声が出ない、片方は半魚人!)等が特に印象的。
ストリックランドについた傷の位置、最後に一人になってしまった老人に黒人女性の同僚が寄り添う描写等細かい部分まで気が利いている。
ラストも解釈の余地を残し、美しく締める。
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