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シェイプ・オブ・ウォーターのmahのレビュー・感想・評価

4.8
アメリカとソ連の冷戦の真っただ中。アメリカ・ボルティモアの航空宇宙研究センターに勤務する清掃員のイライザは、研究室に運び込まれてきた不思議な生き物に出会い、生活が一変する。



素晴らしかったです。
暗い話なんだろうなあと思いながら観に行ったのですが、冒頭の音楽で不安は吹き飛びました。心地良く美しい音楽。身を委ねていたらあっという間に終わってしまいました。
クリーチャーがダメな人は厳しいかもしれません。

音楽の心地良さはもちろん、映像の美しさも素晴らしかったです。
全編通して欲望と本能を美しい映像で昇華してある部分が多いのですが、特にお風呂場のシーンと海のシーンに心を奪われます。
ポスターにもなっている海のシーンは、あまりの美しさに息を飲みました。ぽろりとイライザの足からすり抜けていく、青緑の海に映える赤いパンプス。叙情的でただただずっとその様子を眺めていたくなりました。


前半はイライザという女性を丁寧に描いたうえで、魚人との純愛を美しく表現されており、心が洗われるほどのピュアさ。エンターテイメントなどではない、ただただ深い愛しかそこには存在していません。
そして愛だけでは乗り越えられない壁に非常に苦しくなりました。

人は自分の物差しで「正しい・まとも・普通」等の判断をします。
それは全部間違っていて、きっと全部正解。大事なことは、相手の「正しい・まとも・普通」をどれだけ"わかろうとするか"なのだと思い知らされました。
でも時としてその"わかろうとする"という事さえ棘になってしまうこともある。
そんなもの全てを取っ払って、想いを通わせ、重ねていく作品でした。

悪役であるマイケル・シャノンは素晴らしかったです。
彼なりの”まとも"であることの道を模索し、葛藤していく姿がしっかりと描かれており、極悪人なのに憎み切れません。いやでも極悪人なんだよな・・・・。
彼がいたおかげで、イライザとクリーチャーの彼のピュアさが非常に引き立ちました。
全然関係ないですが、個人的にはホフステトラー博士がすごい好きです。


ご都合主義や荒々しい流れの部分はあるものの、ギレルモ・デル・トロ監督が描きたかった物語をしっかりと堪能できました。
彼だからこそできたものだろうし、世界で一番強いオタクなんじゃないかなあ笑


観終えた際、あまりに苦しかったのですが、劇場の外に出て夜風にあたったらなんとなくスキップして帰りたくなりました。あんなに苦しかったのに不思議だなあなど。
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