emily

シェイプ・オブ・ウォーターのemilyのレビュー・感想・評価

4.2
 1962年冷戦下のアメリカ。政府の極秘研究所で清掃員として働くイライザは幼い頃のトラウマで声を出すことが出来ない。ある日研究所に不思議な生き物が運ばれてくる。人間のような形をして水中で暮らす生き物、イライザはたちまち虜になり、言葉ではなく手話で会話をするようになり徐々に心を通わせていくが・・生き物が研究の犠牲になる事をしり、大胆な行動にでる。

 イライザの日々のルーティンをしっかり描写する。バスタブにお湯を張り自慰行為をし、卵をゆでる。靴をピカピカに磨いて職場に向かう。60年代を思わせるファッションと、無機質な建物に包まれ日々の暮らしの中、決して不幸ではないが、彼女の周りには限られた人しかおらず、マイノリティの生きにくさを随所で感じさせる。一緒に暮らす男性もまたマイノリティの一人で友人は黒人女性である。イライザを演じるサリー・ホーキンスの言葉を排除した表情で見せていく演技が素晴らしい。少女のように可憐な彼女は抑えられない性欲を持て余しており、生き物に魅せられ体を任せるのは自然なように思える。彼女を先入観なしに、個そのものとして受け入れてくれたはじめての生き物であろう。手話で会話をし、徐々に親密になっていく二人の姿がピュアで美しい。

 半漁人でありながら、彼女と交わる事で徐々に徐々に表情を持ち、優しい部分が目にそして態度に出ていき、どこまでも純粋な愛が二人を必然的に包み込み、ファンタジー感のあるラブストーリーにまとめあげていく。

 建物の暗い色彩の中、一際水の青が緑色に浮かびあがり、ぷくぷくと水の中をさまようように色彩美と音楽が全編を占め、純愛に寄り添う。シンプルなストーリーゆえ映像美が際立つ。群れを好む人々が異端者を排除する社会、それは確実に今の社会に繋がっており、二人の結末は残酷かつ美しく、唯一二人がともに生きれる選択であろう。しっかりファンタジーの枠の中におさめ、誰かが誰かを好きになる。たったそれだけのシンプルな事に国籍も性別も姿形も関係ない。当人たちが幸せならそれでよいのだ。
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