マヒロ

シェイプ・オブ・ウォーターのマヒロのレビュー・感想・評価

4.5
作り手の感情移入が目に見えて分かってしまう映画というのはあんまり好きな方ではないんだけど、そういう苦手意識なんかを突破してグッとくる映画だった。そもそも監督が自分を投影しているのが美男美女とかでなく、中年のおばちゃんと半魚人というところの屈折した感じが泣かせるね。

監督が明言している通り、典型的なお伽話的なプロットをなぞりながらそれのアンチテーゼにもなっていて、ヒロインは純真無垢なお姫様ではなく人並みに性欲もあるんだということをはっきりと映像として見せてくるし、悪役は徹底して悪でありながら家庭では子供に慕われているし、実は後ろに控える更なる巨悪に抑圧されているような描写もあったりする。今作とオスカーを争った『スリー・ビルボード』でもそうだったけど、人間を一方的に分かりやすいキャラクターとして写すのではなく、複雑で多角的に描いていくのが最近のトレンドになってきているみたい。
登場人物は徹底してマイノリティ(障害者、同性愛者、有色人種、あと怪物)であるというのも今どきという感じ。ちょっと露骨すぎる気もするが。

主演のサリー・ホーキンスは『ブルージャスミン』でみたことのあるおばちゃんという印象しかなかったけど、タップを踊ったりするシーンはキュートだし、かと思ったらびっくりするくらい色気のあるシーンもあったりして、すごい俳優だなと思った。
悪役のマイケル・シャノンはややタイプキャスト気味だけど、凶悪な顔を存分に発揮して暴れまわっていて良かった。キャラクターとしてはちょっと悪者成分盛りすぎな感じもあって、小便したあと手を洗わないとかなんかは最早悪役というより悪ガキレベル。

徹底された画面の色使いに不思議なカメラワーク、格好良くもありきちんと怪物らしい気持ち悪さもある半魚人の造形の素晴らしさ、古き良き映画や音楽に対する迸るような愛など、この映画で終わっても良いと覚悟しているかのごとく、デルトロ監督のエッセンスのありったけをぶつけているかのようでとにかく圧倒された。監督がプロモーションで来日した時に「中野ブロードウェイに行っても何も欲しくならなかった」とか寂しいことを言っていたけど、熱入れすぎてある意味賢者モードみたいな状態になっているのかもしれない。その情熱は十二分に伝わってきたので、なんとなく納得出来るけど。

(2018.18)[6]
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