モンティニーの狼男爵

シェイプ・オブ・ウォーターのモンティニーの狼男爵のレビュー・感想・評価

3.5
『シェイプ・オブ・ウォーター』、『水の形』
本来無形である水の形とは何なのか。
そう考えると登場人物が求めてるものって案外無形のものばかり。そう言ったら人が本当に欲しいものって形などないものなのかもしれない。

声を持たない女性。勝手に神として崇められる半魚人。ダメ夫と離れられない差別される黒人女性。愛の理解が得られない売れない画家。本国の忠誠が揺れるソ連のスパイ。誰もが憧れる体裁を手に入れたが何かが満たされない所長。
1962年のあの時代で、彼等はそれぞれ深い段階からの物語を持ってる。たまたま今回、フォーカスがエライザと半魚人の恋物語ってだけ。言葉を持たない彼女だからこそ、人間特有の複雑とした言語を超越した、共感し難い愛が、具体的な形となって伝わってくる。フォーカスして1番深みが出るであろう事象ではある。

個人的に理解したかったのはやっぱり所長かなー。最後の最後に感情爆発と言うか、彼自身もあんなことして解決するなんて思ってなかったんだろうな。皆が所謂表面的に憧れるすべてを手に入れたから、何かを失うってことに免疫が無かったのかもしれない。何不自由ない家庭を築いてしまったからこそ、美人な妻のセックスでは無表情で、声の欠落したエライザに惹かれたのかもしれない。

未だアメリカで蔓延る同性愛差別と黒人差別。所長はトランプの独裁への皮肉?冷戦当事者の殺したはずの心の機微。
現代にも過去にも投げ掛ける問題提起を、あの澱んだ、綺麗とは言い難い世界で描ききったと考えれば、賞の受賞も頷けるかなー。