10円様

シェイプ・オブ・ウォーターの10円様のレビュー・感想・評価

4.0
【現実的な2人が織り成す幻想的な寓話】

口がきけず顔と手で人と話し、小さなコミュニティに生きるイライザ。どうやら友人と呼べるのは同僚と隣人の2人だけ。タップダンスを好み靴をきちんと磨き、恋愛にも思い馳せる花翫暦色所八景。その純真無垢な振る舞いはから妙齢の女性と見紛うことしばしば、幻想劇や絵本物語でようやく成立する人物設定であります。

一方正体の分からない「彼」は、神と形容されるほどの荘厳なる形貌に未知の生態。時に人を癒し時に肉を食い、皆が畏敬の念を払い、結果悪とされるものによって逃げ場の無い艱難辛苦の状況へと転落していきます。

幻想的な2人。ともすればイライザは毎日床を這いながら汚れをとったり、浴槽でオナニーに喘いだり。「彼」は人間の横暴に対し萎縮する巧知を見せる事もあれば、水が無ければ衰弱する適応への無力ぶりも見せる。存在意義はアメリカには肯定的側面がある実験材料であり、ソ連には脅威となる生物でありそれ以上のものではない。これが現実的な2人。

そんな2人は現実的な恋人と同じようにキスをしてセックスをします。その営みがとても美しく、無垢な女性と異形の者が身体で語り合う姿は、「パンズラビリンス」の延長線上に到達したかの様にも思えます。この面妖な愛がギレルモ監督が作り出した形なのならば、そっと目を閉じて飲み込まれるしかないでしょう。

しかし10円様が今作で最も感情移入したのは、マイケルシャノン演じるストリックランドでした。彼は非常に尊大な性格でありながらも、地位があり、家庭は円満であり、良い車に乗り、アメリカの典型的な成功者として描かれています。
しかし、イライザの登場により妻を蔑ろにしだし、「彼」の登場により嫉妬心を抱きます。自尊心の包含と権力に脅迫される事で執拗に「彼」を追いますが、イライザが初めて怒りを露呈して放った「く・た・ば・れ」という指の動きの意味を察知してから、行動原理は嫉妬が優ってきます。本当はストリックランドは「彼」を殺すつもりなど無かったんじゃないかな。己を示す対象であれば良かった。「彼」を最初に神と形容したのはストリックランドなのだし。この「彼」を巡る良心と悪意が対立する幻想的な物語の中で、唯一現実的に苦悩している男。浮かばれない最期。その姿が遣る瀬無かったのですよ。

本国で公開されたオリジナル版は性描写が激しくR18指定となっています。日本ではR15指定ですがモザイクがかかるほど生々しいセックスシーンがありますので、究極のラブストーリーとは言いますが親子では観ないように…

とても素晴らしい映画でしたが本心です。

「ギレルモ監督がオスカーとったのは嬉しいんだけどさ、我々が求めているのはパシフィックリムの続編なわけよ」
10円様

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