おいちゃん

シェイプ・オブ・ウォーターのおいちゃんのレビュー・感想・評価

4.3
「美女と野獣の発想は好きだが、なんで美形の人間に戻るんだ?」と疑問を呈する怪物を愛する男ギレルモ・デル・トロがそのアンサーを提示してオスカー監督になった記念すべき映画です。

60年代という近代化と色濃い差別と古びた権力がごちゃまぜな混沌の時代が、怪物と人間の許されない愛を描く舞台にベストマッチ。
50年代後期から60年代初期の雰囲気を未来的かつ現実的に、そしてかなり監督のファンタジックな感性を加えて再現した美しくモダンアートな世界の作り込みが凄い。

本作における怪物はもちろん半魚人ですが、彼に協力するのは言葉が話せない主人公、同性愛者の同居人、黒人の友達など、社会的に厳しい偏見があった(言い方を選ばなければ半魚人と同じく怪物扱いされていたとも言える)人々。

悪役のストリックランドは常に「完璧で完全」な白人であり、昔の映画なら主人公、ヒーローとして登場していたであろうキャラ設定です。

いわゆる「不完全」とされる人物たちが「完全」である強権的な人物を一丸となって倒すという構成は、一見するとあざといですが、その完全たるストリックランドも、負傷や仕事の失敗による「不完全さ」が出始め、最後には狂気に堕ちていきます。
日頃から「不完全」を排除しようとしてきた彼は自分がそうなった時に支え合う仲間がいなかった。
そこが主人公側の人々と勝敗を分けたポイントであり、デル・トロが描く「手を取り合う事の大切さ」の象徴であると思いました。(パシフィック・リムでも同様のテーマを描いている)


人間と怪物の境界線はどんどん曖昧になっていき、そもそもそんな線引きが愚かしく感じてくる。
完全さは大事なのか?不完全な存在であることは許されないのか?
デル・トロ監督の「怪物愛」はあらゆる「完全でない人々」が対象であり、全てに存在する赦しを与えてくれていると感じました。
おいちゃん

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